コンピレーション・アルバム13曲目は「アイデアル雨傘」のCMです。

 正確には曲ではなく、植木等が「ナンデアル、アイデアル」と言ってハーッハッハと高笑いするだけのものですが、これが秀逸で、ナンセンスな台詞の中に社名、アイディアというイメージ、愛というイメージを凝縮しています。植木等のセンス無くしては完成しなかったCMだと思います。

 

 14曲目は「仮面の忍者赤影」のメインタイトルです。

 「鉄人28号」の横山光輝原作のまんがを実写ドラマ化したもので、東映テレビ映画が制作し、フジテレビ系列で1967年4月から68年3月まで放映されました。

 カラーテレビ最初期の作品だけに、今は無き三洋電気がスポンサーで、「サンヨーサンカラー劇場」と銘打たれ、主演の3人が赤、青、白の3色の色分けで役が振られているのをはじめとして、全体にカラー作品であることを強調した画面作りでした。しかし、まだカラー放送自体が始まったばかりで、白黒放送も多い時期でしたので、当初はみんな白黒テレビで見ていて、カラーで見たのは後年の再放送だった人が多いと思います。

 当時はウルトラQからウルトラマンに至る怪獣ブームだったため、忍者映画のはずが、千年ガマや金目像などの怪獣やロボットを登場させて、「赤胴鈴之助」や「隠密剣士」のような普通の子供向け時代劇が一般的だった時期に、特撮時代劇という新しいジャンルを切り開いたことでも画期的な作品でした。

 金目像は前年に公開された大映映画「大魔神」のパクリのような気もしますが、原作の横山光輝は「鉄人28号」の作者でもありますから、むしろロボットつながりといった方がいいかもしれません。

 色分けされたキャラクターやロボット特撮など、後の「ゴレンジャー」や「ガンダム」の源流にある作品として位置づけられます。 

 主題歌の作詞も手がけた脚本担当の伊上勝は、この作品以前に「豹(ジャガー)の眼」、「隠密剣士」などを手がけ、さらに後には「仮面ライダー」シリーズの大半の脚本も手がけており、ヒーローアクション・ドラマの開拓者でもあります。この作品は、忍者ものの「隠密剣士」とヒーロアクション・ドラマの「仮面ライダー」の連結点でもあるといえます。

 主題歌の作曲と全編の音楽を担当したのは小川寛興です。

 小川は、この作品以前にも、「ぽんぽこ物語」(1957)、「月光仮面」(58)、「七色仮面」(59)、「鉄腕アトム」(実写版59)、「豹(ジャガー)の眼」(59)、「快傑ハリマオ」(60)、「隠密剣士」(62)、「おはなはん」(66)、「忍者ハットリくん」(実写版66)など、草創期のテレビ・ドラマの重要作品を数多く担当した重鎮です。

 この作品の音楽は、パンチの効いたマーチのメインタイトル「忍者マーチ」にはじまり、小川ならではの格調高い重厚なオーケストレーションの曲が満載で、子供向けの作品にありがちな手抜きはまったくありません。伊福部昭の大映映画での時代劇作品にも比肩しうるものです。

 この作品は音盤化にも恵まれています。

 放映当初は、この時期では普通だった、主題歌と挿入歌を収録したシングル盤と物語と主題歌、挿入歌を収録したソノシートが発売されました。このシングル盤とソノシートは、これもこの時期には普通でしたが、テレビのサウンドトラックに実際に使用されたものとは別に録音された、ひばり児童合唱団とボニー・ジャックスによるカバー・バージョンが収録されています。

 

 

 

 

 1980年には、テレビのサウンドトラックを収録したLPが発売されましたが、映画でさえ日本の作品のサントラ・アルバムが発売されることが少なかった時期にTVサントラが発売されることは非常に珍しいことでした。

 このアルバムには、初放映当時発売されることがなかったヤング・フレッシュとボーカル・ショップによるオリジナルTVサイズの主題歌と挿入歌が収録されていました。

 後述のVAPから発売されたサントラCDに収録された作曲者自身へのインタビューで、ヤング・フレッシュというボーカルユニットは、「ひょっこりひょうたん島」や「キューティハニー」の主題歌を歌った前川陽子が中心となっていることが明かされていますが、こちらはシングル盤のひばり児童合唱団バージョンに比べて格段にパンチが効いた歌になっています。

 このアルバムのジャケットは横山光輝の原作漫画のイラストが使用されており、ジャケット・デザイン面でもとてもよくできています。

 

 86年には、80年のLPが語りや台詞が多く収録されていたものを、音楽中心の内容に変更した改訂版のサントラアルバムが発売されました。

 こちらのジャケットは赤影の写真に縦書きでタイトルを配したもので、こちらも迫力のあるデザインです。

 

 最初にCD化されたのは、1987年のオムニバスアルバム「栄光の東映テレビ映画懐かしのテーマ大全集」で、ヤング・フレッシュとボーカル・ショップによるTVサイズの主題歌「忍者マーチ」が収録されています。コンピレーション・アルバムにはこのバージョンを収録しています。

 

 完全版のサントラ・アルバムは、1994年に、日本最初のサントラ専門レーベルサウンドトラック・リスナーズ・コミュニケーションズ(SLC)から2枚組CDで発売され、現存するすべての音源を他作品からの流用分を含めて収録するという、こちらも従来の日本のTV作品のサントラ化としては破格の扱いでのアルバムとなりました。こちらのジャケット・デザインは赤影の写真に縦書きでタイトルを配した日本作品のサントラ・ジャケットの王道を行くものですが、いかんせん、CDサイズでは迫力に欠けました。

 

 SLCの営業終了後、SLC版とまったく同内容の完全版サントラに、ボーナストラックとして従来CD化されていなかったひばり児童合唱団とボニージャックスのシングル・バージョンを加えたCDがVAPから2001年に発売されました。たった2曲のためにもう1度CDを買わされるハメになってしまいましたが、作曲者小川寛興へのインタビューや詳細な曲説明が新たに加えられた充実の内容になっており、買って損はありませんでした。ただ一つ難点はジャケットで、横文字アルファベットのタイトルに赤影の仮面のみを配した、ちょっと見では「これ赤影のサントラ?」と思うようなトホホなデザインです。