9/10毎日俳壇・歌壇。

(片山由美子選)

★冷房を止めて夜明けの風を待つ 秦野市 林 ち島

 <評より>自然の風をありがたいと思うころに。 

★屋根の無き自転車置場大西日 明石市 増田良子

(小川軽舟選)

★涼新た老犬深く眠りけり 宍粟市 宗平圭司

 <評より>新涼を楽しむように眠る老犬への愛情がさりげなく表された。

★露草や終の住処と決めし朝 徳島市 藤岡值衣

 <評より>この家に最後まで暮らそうと庭の露草を見てやっと決心がついた。

★二代目は有機農法青田風 平塚市 森本富美子

★退職の後の無聊や百日紅 出雲市 石原清司

★二時間に一本の駅風死せり 君津市 本吉孝雄

(西村和子選)

★やれやれと噴水肩を落としけり 鹿嶋市 津田正義

★涼新た白抜暖簾の一文字 横浜市 相沢恵美子

★一泊もせぬ帰省子でありにけり 奈良市 上田秋霜

(井上康明選)

★岸へ寄る流灯ひとつ押し戻す 高松市 島田章平 

★かの祖父と鶏つぶしけり盆用意 朝倉市 鳥井てんせき 

★刈り急ぐ田や台風のくる前に 津市 秋山歩荷

★被災地に子供食堂天高し 東京 福島照子 

★病む妻のわがまま許す鳳仙花 大阪市 吉田昌之

(伊藤一彦選)

★エノコログサの種ほろほろとこぼれ落つ優しく接したつもりだったのに 横浜市 谷口菜月

 <評より>人間関係の難しさを歌った作として読めばより印象深い。

★墓の前に子は神妙に手を合わすペットのヤモリの初盆なれば 奈良市 久保祐子

(米川千嘉子選)

★「湖」も「遊びに行く」もみな漢字「彩那(なな)」も正確小三夏便り 村上市 杉江正子

★「ごはんよ」と遊びの子らに母の声ガザにもあつたはずの夕暮れ 岡山市 平尾三枝子

★亡き夫に止めてとばかり言ったけど好きだったかも煙草吸う顔 大阪市 鈴木雅子 

★水を汲むだけで一日過ぎてゆく国の子思うプールの中で 金沢市 竹内一二

★くじ引きでメロンを当てた末弟は残念賞の金魚が欲しい 京都市 根来美知代

(加藤治郎選)

★水門が静かにあがり生も死も歓迎される夜明けとともに 東京 新井 将

 <評より>河口付近の水門、夜明けの海、生と死、存在の全体が受け入れられる。気高い作品。

★「こんなにも!こんなにも!」って言いながら何も持たずに帰ったあの子 神戸市 入間しゅか 

★紙パンツ穿いてみたなら心地よくつい365日穿いている 札幌市 橘 晃弘

(水原紫苑選)

★はばたけぬ舟だとしても 観覧車 あなたの背負う夜空を見せて 大阪市 羽水 繭 

 <評>観覧車には独特のイメージ喚起力がある。飛ぶことはできなくても、夜空への夢を捨てない彼ら。

★台風の過ぎ去りし朝みずうみに鳥を浮かべるちからを見つむ 東京 富見井高志

★ミレーの描く農婦のようにじゃが芋をむくときまるくなる母の背な フランス 小仲翠太

★語り部は原爆樹木のアオギリをさん付けで呼び片足で立つ 山口市 平野充好


◎毎日新聞の今日の「出会いの季語」は、9/8の朝日新聞の「うたをよむ」で、若手の俳人、岩田圭、安里琉太、黒岩徳将、若林哲哉さんたちを紹介されていた高田正子さんの随筆でした。

 8月の末、松山市の三津の町を歩いた。南の海に台風10号を置きながらの俳句甲子園(同市)が、熱中症厳重警戒の内にも無事に終わったあとのことだ。私自身の予定は流れてしまったので、若い方々の計画に、誘われるままに飛び入り参加させていただいたのだった。 


★よき友のよき一言や新豆腐 宇多喜代子


 伊予鉄高浜線で三津駅へ。まず運賃を確かめて切符を買う。何年ぶりのことだろう。改札を通るときはハサミでなくハ ンコだったが、これもまた懐かしい。


三津駅では下車後、すぐに町へ入らず港山のほうへ向かった。細い入江を隔てて三津の対岸にある町だ。海に切り立つ崖の上にはかつて城があったのだとか。

 

 崖のふもとには「三津(港山)の渡し」がある。江戸の昔、当時23歳の一茶も渡ったらしい。一茶の紀行文が残されていて「小深里の洗心菴に会す」として、


★汲ミて知るぬるみに昔なつかしや 


ほか3句が記されている。


 遠回りして入った三津の町は、昔の屋敷をそのまま、あるいはリノベーションして店舗に利用するなど、人の手が居心 地よく加わった町だった。

 メインストリートの石だたみは照り返しがきつかったが、片陰にかき氷待ちの列ができていたり、手を出すとふーっと怒る猫が寝そべっていたり。


 そう、秋を感じることは一度たりともなかったが、今その日の写真を見返すと、空の色や影の深さが秋らしく見えてくるのが不思議。面白い一日だった。(高田正子)