8/26毎日俳壇・歌壇。
(西村和子選)
★追ひ山笠(やま)を舁きてそのまま逝きし人 福岡市 木本美也子
★鳴き竜の声の枯れたる晩夏かな 東久留米市 夏目あたる
★大阪はせつかちな街鱧の皮 東京 徳原伸吉
★サングラス外し言ひ訳ばかりなり 狭山市 小俣友里
★晶子歌集に母の書込み夜の秋 川越市 峰尾雅彦
★すずしさや草を刈りたる遍路塚 川越市 石田浩二郎
★髪切りて受くる夏越の祓かな 奈良市 伊東 勝
※髪は邪気がつきやすいので髪を切って臨むお祓いはよりいいのだそうです。
(井上康明選)
★初秋の風に紛れて君逝くか 東京 高木靖之
★苧殻(おがら)焚く父出征の石の門 秦野市 林ち島
★天界の父母に供華揚花火 福山市 佐藤育子
★ネオンサインきらめく二百十日かな 相模原市 はやし 央
★夕立や木の表札の名が滲む 甲府市 村田 一広
★シャワー浴ぶ手首に白き時計痕 久喜市 利根川輝紀
★仏壇の位牌正せり秋の風 市川市 高野厚夫
★一途なる妻の面影酔芙蓉 高松市 島田章平
(片山由美子選)
★帰省子の少し太りて駅発ちぬ 伊勢市 藤井信弘
★キッチンの窓開けて見る揚花火 市川市 高野厚夫②
★夕立を分けゆく路面電車かな 広島市 谷口一好
★野の花を活けて涼しき蔵座敷 和歌山市 藤池芳子
※「蔵座敷」=土蔵の中でも格式が高く、婚礼や法事、上客の接待などの時に使用する建物。
★耳なりのごとあぶら蟬鳴きはじむ 河内長野市 河野泰子
★冷し酒切子に満つる青さかな 東京 菊池和正
★みつ豆やすぐに忘るる話など 東京 渡邊 顯
(小川軽舟選)
★七夕や母の命日繰り返す 伊万里市 田中秋子
<評より>命日は毎年の繰り返しでも、思いは常に新た。
★青蔦やかつての同志ちりぢりに 日向市 内田遊木
★炎天や白装束の荒法師 さいたま市 池田雅夫②
★遭難の死者のレリーフ雲の峰 前橋市 松本 潤
★農家継ぐ若者の髪青嵐 坂戸市 戸田九作
(加藤治郎選)
★ふくよかな月光だけに満たされて今夜の海は嬉しいでしょう 福岡市 西田浩之
★きみが花かんむり置いて戻らない八月の椅子ごと風になる さいたま市 霧島あきら
★遠き日の土管積まれし空き地には無邪気な我の幸せがあった 北名古屋市 月城龍二
(水原紫苑選)
★空港に行きたくて空港へ行くここはわたしを透明にする 千葉市 芍薬
(伊藤一彦選)
★窓際ですべての文字を噛みしめるように新聞を読める老人 那覇市 奥村真帆
★そぎ落とし続けて母は意地という最後に残った砦を守る 駒ヶ根市 市山利也
★勝敗を分けし選手が抱き合ひ道着の白と青が溶け合ふ 横浜市 豊田迪子
★搬送を終えて帰りの救急車は炎熱の中ゆっくり走る 北広島市 富丘治生
(米川千嘉子選)
★雄叫びのスケボー金の堀米よ悲痛なる顔するんだ人は 大阪市 森川慶子
<評より>メダルに懸ける全力性や必死さに「悲痛」をも感じたのだ。
★「中国を破り日本が金」の声なだれ込む張さんと働くホールに 広島市 堀 眞希②
★アンネ・フランク歴史の人とおもひしが永らへをれば未だ九十五歳 横浜市 大建雄志郎
★神鳴るを遠く聴きゐて思はずも敵機に怯えし少女に還る 京丹後市 山副美佐子
★AIが作業するのでストレスのなき職場だと企業紹介 北名古屋市 月城龍二②
★ひまわりの乾いた種に鼻をよせ散歩のにおいときみは言った 中国 岸 志帆莉
★ついてきてくれたらがんばれるだなんて無防備に言う人の手をとる 東京 遠野 鈴②