8/12毎日俳壇・歌壇。
★かき氷待つ間に用事思ひ出す 鎌ヶ谷市 海野公生
★海の日の海をはるかに出勤す 芦屋市 井上竜太
★香水の香りに心くすぐられ 京田辺市 大西清美
(小川軽舟選)
★塹壕の如く蟻の巣ありにけり 青森市 小山内豊彦
★マンションの夜景に泳ぐ熱帯魚 狭山市 小俣友里
<評より>水槽の向こうに窓の夜景がある。
★蛍飛ぶ棚田潤す用水路 盛岡市 舟山治男
(西村和子選)
★物音のひとつひとつや明易し 米子市 永田富基子
★夕端居聞かぬ振りして聴く話 千葉市 笹沼郁夫
★点滅に見入る子らの眼蛍籠 藤沢市 青木敏行
★移住して開く茶房やアマリリス 大阪 井口千賀子
(井上康明選)
★身じろぎもせず雲一つ旱星 唐津市 梶山 守
★夾竹桃父はヒロシマ語らざる 東京 徳原伸吉
★天界へゆきつきたしと竜舌蘭 和歌山市 中筋のぶ子
★月光を滑らせ芭蕉玉を解く 豊田市 松本 文
★晩夏へと踏み出す人工股関節 明石市 小田慶喜
(伊藤一彦選)
★シベリアに斃れし戦友を羨むほど地獄を舐めし復員兵ら 甲府市 高瀬孝人
<評>先に死んだ者を羨むほど過酷なシベリア抑留。ちょうど山口県立美術館で「香月泰男のシベリア・シリーズ」展が開催中だ。
★定年後趣味の増えゆく父つひにメルカリサイトに篠笛を買ふ 横浜市 谷口菜月
★母の話をさせてください素麺に缶詰みかんを浮かべ迎え火 武蔵野市 北谷 雪
(米川千嘉子選)
★陶芸の道半ばにて戦死した祖父の掌想う茶碗の丸みに 東京 水原理郁
★戦死せし父の墓石を抱きしめる妹二人も老いてさびしき 大阪市 下川佳子
★日の丸と万歳を背に父出征乳呑み子腹の子銃後の母置きて 行田市 永沼規美雄
(加藤治郎選)
★終戦の祈りの校庭そのままに百葉箱はあくまで白く 東京 新井 将
★砂漠化が進む地球の裏側でプラスチックを洗って捨てる フランス 小仲翠太
(水原紫苑選)
★生まれつき小鳥のような人だった小鳥に凭れ生を繋いだ 東京 富見井高志
◎新刊(俳句関係)紹介
◇小川軽舟『名句水先案内』 毎日俳壇選者による同時代の名句を探る一冊。2010年以降の句集を対象としており、「名句を育てるのは読者の皆さんなのだ」と書く通り、奥行きのある、かつ明晰な文章で俳句へと導いてくれる。巻末の「あとがき」が平成以降の俳句史となっており、読み応えがある。(KADOKAWA・2200円)
医師による医師俳人の句の鑑賞書。宇都宮の精神科病院の院長だった静塔の作品を通じ、その「俳人格」という俳句理念へと迫ってゆく一冊。〈精神科運動会天あけひろげ〉〈表裏なくかがやく精神 科の聖樹〉(ふらんす堂・1650円)