7/29毎日俳壇・歌壇。

(西村和子選)

甚平の父の背少し痩せたるか 大阪市 すずしろゆき

★梅雨深し押して目のつぼ腰のつぼ 加古川市 中村立身 

 <評>不快な体感から心地よい体感に導く手腕。つぼを押し当てたにちがいない。

★全集は書架に色褪せ桜桃忌 横浜市 岡本千枝

★京言葉風に乗り来る夏座敷 伊勢市 藤井信弘

★ハワイアン茶房に流れ海開き 尾張旭市 小野 薫

★紫陽花や納屋に古りたる乳母車 嘉麻市 堺 成美

★吊ればすぐ山の風来る軒風鈴 浜松市 久野茂樹

(井上康明選)

★苔の花ふえて碑陰の文字うづむ 東京 望月清彦

★玄海の一日見えて籠枕 北九州市 宮上博文

★西日濃しつくづく重き広辞苑 鎌倉市 小川 求

(片山由美子選)

★洗い物すませ加はる庭花火 加古川市 伏見昌子

★噴水の高さいきなり変はりけり 川口市 高橋さだ子

★酒米と立札のあり青田風 奈良市 梅本幸子

★夕薄暑ベンチに帽子忘れられ 橿原市 信賀美保

★賛美歌のもれくる館蔦青し 平塚市 日下光代

★月涼し窓開けて聴くドビュッシー 志木市 谷村康志

(小川軽舟選)

★夜の雨の止みししじまや青葉木菟 平塚市 高橋佳代

★暮れなづむコンビナートの影涼し 四條畷市 中尾謙三

(加藤治郎選)

★かき氷食べてベロ出す姉弟共にアラ還イチゴとメロン 北九州市 鳴見はるみ

★錠剤のほどけるまでは天井をとおい水面のように眺める 大阪市 羽水 繭

(水原紫苑選)

★深海の魚のひとみ暗闇に届くひかりの証明として 津市 川原田明子

★老犬は王の所作にて病院の西日まぶしき廊下をゆきぬ 千葉市 芍薬

★掃溜へ打ち捨てられた花束を静かに撫ぜる鈍色の雨 熊本市 中島遊静

(伊藤一彦選)

★都市開発が進む故郷は干上がった海が広がるうつくしい街 福岡市 鷹橋ねい

★七月六日なんの日か聞いたら古老知ってるサラダ記念日 須崎市 野中泰佑 

★聖堂の崩れた瓦礫の木材に座ってひざを抱いている人 枚方市 久保哲也 

★酷暑、猛暑、危険な暑さ 日本語の行き着く先はどこなのだろう 横浜市 豊田迪子

(米川千嘉子選)

★昼過ぎのロッテリアにてキャバクラのあかるい採用面談を聴く 千葉市 芍薬

★はやばやと熊よけの鈴背に鳴らし北海道は千キロも先 奈良 島 眞澄

★アルファベットビスケットから抜き出したPEACEをひとつ食べては祈る 札幌市 住吉和歌子

★久々に米研ぎ何度も繰り返す値段の高い無洗米をやめ 国立市 佐藤 建

★ ”NO"と言ふ勇気のなくてひと言の"YES"に苦しむあの時の偽善 伊丹市 岡本信子 

★一歳の誕生日に向け御近所のパン屋に頼む一升パンかな 須崎市 野中泰佑②

★母親に忘れられたと涙する今年七十二歳の子ども 沼津市 本田影二

★草深き峡に嫁来る夏の朝爺は水打つ二度も三度も 島根 重親峡人