俳句ポスト365 兼題「南風(みなみ)」の回 中級者以上結果発表 木曜日【秀作

洞窟は波と南風の鳴きて碧 いさな歌鈴

 〜(夏井先生の選評。以下同じ)「洞窟」の中に打ち寄せてくる「波」、生臭く潮臭く吹き込んでくる「南風」。私の故郷愛南町由良岬の突端にある洞窟エビウドが、生々しく浮かんできました。「鳴きて碧」の光の屈折までもが、実に鮮やかに。


★アリクイの垂るる目脂や南風 みづちみわ

 〜(夏井先生の選評)「アリクイ」は、特異な長い鼻には似合わない、可愛い円らな眼をしています。が、そこに垂れている「目脂」に気づいたとたん、「南風」の生臭い湿気を感じとったのでしょう。その感覚が、中七「や」の詠嘆に託されています。


南風やスナメリの噴くぬるい水 にゃん

 〜(夏井先生の選評)「スナメリ」は、小型のイルカの仲間。水族館のイルカショーか、イルカに会うツアーかもしれません。「南風」が吹き歪ませた「スナメリ」の噴く「ぬるい水」を、私たち読者もありありと追体験させられる作品でした。


反対派の漁師と南風と罵声 赤馬福助

 〜(夏井先生の選評)「反対派」の一語が、事態を想像させるに足る働きをしています。「漁師」という人物、「南風」という季語、「罵声」という音と感情。これらを並べただけなのに、私の脳裏には辺野古の海に吹き募る「南風」がありありと見えてきました。


江ノ島の犬南風をがぶ飲みす 千歳みち乃

〜(夏井先生の選評)「江の島の犬」が、ガウガウ吼えているのでしょうか。その様子を、「南風をがぶ飲み」しているようだと捉えた点に独自性があります。湿気を含んだ海からの風ならではの「がぶ飲み」に違いないと、納得しきりです。


南風や舳綱が錆を削ぐ匂ひ 一斤染乃

 〜(夏井先生の選評)「舳綱(へづな)」とは、船首の舫い綱。「南風」の起こす波に揺らぐ船、その船を岸に繋ぐための「舳綱」はぎいぎいと揺れています。錆の匂いを描いた句は様々ありましたが、「錆を削ぐ匂ひ」という感じ方が、生臭い「南風」のリアリティとなっています。


貝塚に牙の釣り針大南風 げばげば

 〜(夏井先生の選評)「貝塚」の貝殻に混じって、獲物の「牙」で作った「釣り針」を見つけたのでしょうか。この針を手に、古代人たちが海の獲物に挑んでいた遥かな時代。その頃と同じ「大南風」の中に立つ現代人の感慨とは。


叩くならボンゴかコンガ南風 佐藤香珠

 〜(夏井先生の選評)「南風」の中で楽器を叩くとすれば、「ボンゴかコンガ」という発想が愉快です。「ボンゴ」は胴の短い桶型の太鼓、「コンガ」は細長い樽型の太鼓。どちらも、南洋から吹き始める「南風」を囃し立てるかのような根源的な音です。


怒号飛ぶコンテナの裏大南風 ふもふも

 〜(夏井先生の選評)コンテナを積み込む港。コンテナの裏から聞こえてくる怒号は、危険と隣り合わせの積み込み作業。折しも吹きあがる「大南風」に、コンテナがぐらりと揺れたのでしょうか。「大」の一字が、しっかりと効いている作品です。


じつとりと南風生肉吊るす市 陽光樹

 〜(夏井先生の選評)海外の海辺の市場を想像しました。「じつとりと」という言葉は、季語「南風」の描写でありつつ、「生肉」の乾いていく表面の様子だったり、「市」の人々の気怠い表情などを思わせて、実に巧みな働きをしています。

(以上)