7/8読売俳壇・歌壇。

(矢島渚男選)

★はたた神東京湾を渡りゆく 神奈川県 中島やさか

 【評より】はたた神が東京湾を渡ってゆくという、大きく豪快な表現。 

★ででむしのレタス食みをる夜更けかな 高山市 直井照男  

★煙管もつ祖父の思ひ出夏座敷 本庄市 入 利雄

★闇をつく火振りの舞ひや川漁師 西尾市 青山伸一

★ネクタイの宮の総代紙衣(かみこ)着る 総社市 風早貞夫

(高野ムツオ選)

★一条の滝の如くや蛇の衣 和泉市 山崎文恵 

★滴りといふ岩石の息づかひ 東京都 望月清彦 

★さんずいを描くが如く滴れり 前橋市 豊嶋啓一朗

★新幹線青田過ぎればまた青田 三条市 星野 愛 

★杖つけばなべて親切若葉風 牛久市 中村栄子 

(正木ゆう子選)

★線状降水帯身をもって知る夜の出水 いわき市 藤田愛子

★弱くなく勇ましくなく姫女苑 福生市 二瓶利明

★蜜豆に三人姉妹嘘をつく 倉敷市 谷吉修一 

(小澤實選)

★一日に卵を一個羽抜鶏 太田市 阪本和夫 

★骨盤のごとき根榾や夏の炉に 札幌市 村上紀夫  

★池越しに写経の少女半夏生 京都市 吉田基子 

 【評より】池越しにあるお堂。少女の来し方は如何に。

★抗へる火蛾を守宮が呑むところ 名古屋市 可知豊親 

★英治好き周五郎好き籠枕 福島市 引地こうじ 

★さりげなく新茶を淹れてくれしかな 松山市 久保 栞

(小池光選)

★見はるかす早苗田のなか緑濃き浮島の見ゆ 耕作放棄地 海老名市 間藤義教

★どこ行くか誰と一緒か聞けぬまま二十歳を過ぎた子の背見送る 昭島市 中村恭子 

★大学の女孫ふらりと庭畑の手伝ひに来て元気かと言ふ 八王子市 斎賀 勇 

★脚立してさくらんぼ取りつつ想ふ九州の孫、仙台の孫 寒河江市 川嶋 栄

(栗木京子選)

★カスハラの応対終えて座り込む親にも子にも見られたく無い 熊本市 甲賀亨子 

★久々にパソコンさわれば亡き母に宛てた手紙のフレーズ出でくる 大津市 松井美枝   

★眼鏡掛け帽子かぶりて服地味に女孫のバイト覗き見にゆく 所沢市 小室佳久

★時代にはついていけぬと言いつつも見たい知りたい百歳目指す 静岡市 榧守美鶴

★万博の月の石から半世紀子供の消えた昭和の団地 吹田市 佐々木寛治

(俵万智選)

★用事なき日にエプロンで庭へ出るわたしは花の主治医のように 和歌山県 助野貴美子 

★アカイカの鴨川沖にくる頃か釣りの誘ひの未だにあらず 市原市 井原茂明 

★口出しをすれば嫌がる思春期に雨が降るよと三度伝える 船橋市 矢島佳奈

(黒瀬珂瀾選)

★「 ただいま」と君の遺影に声かけてあとは無言の長い一日 大阪市 黒田道子 

★次々と解体決まる友の家よ部活帰りの夕日懐かし 金沢市 干場美幸

 【評】能登震災の被災地のご出身と推察します。損壞家屋の解体を聞き、変化する故郷の 風景を実感する。悲しき思いを馳せる現実。

★汝が生れし時の短歌が新聞に載ったと笑いし父が旅立つ 横浜市 小長谷倫代 

★語りくれし人工関節とはこれか頑張りしよと骨上げに見る 東大和市 板坂寿一


◎「枝折(しおり」