7/6西日本新聞「ながさき読者文芸」

◎俳句 籏先四十三選

四年目の若い移住者田水張る 佐世保 相川正敏

★草笛や瞼の裏に母浮かぶ 佐世保 小山雅義

★薫風やラスト一周への声援 諫早 安浪加余子

★坂道を息継ぎながら白日傘 対馬 神宮斉之

★白檀の香る回廊夏至の夕 西海 楠本シヲリ

★山越への渇きを癒す苔清水 雲仙 伴 信彦

★蟻の道辿れば獲物囲ひ込み 長崎 成瀬至楽

★風鈴や秘窯の里の子守り歌 松浦 舩原清洋

★石垣は武家の名残りや柿若葉 島原 野田耕起

★土の香に死者の声聴く沖縄忌 佐世保 牛飼水鳥

★水切りを父と競ひて夏の川 島原 坂本優美子

★歓迎の歌ゲロゲロと夏蛙 長崎 溝口健治

★梅雨入りや雲の流るる坂の街 佐世保 五月女 守

★弾く手なきピアノの上の梅雨じめり 佐世保 川原田安子

★植田径地図なき道をみな生きる 佐世保 松尾和子

★十薬を干して忘れし納屋の軒 西海 森 保子

★木下闇杖を休むるベンチかな 佐世保 太田恵子

★師の声のいつもパワフル梅雨の明け 佐世保 馬場定水

★陰干しす蕺菜を日々二十本 諫早 石田志帆


◎歌壇 黒田邦子選

★新築に生涯住めぬ母ゆえにせめてお骨は藤の花壺 松浦 前田サツキ

  【評より】「母はムラサキ色が好きでした」の添え書きあり。

★遠方の友より届く夏野菜なす・ナス・茄子とレシピ紐解く 佐々 法本安子 

★縮みゆくわが生活の動線を敬老パスのバスでおぎなう 佐世保 林田 勝

★元寇の船の木片揚げられて幾百年の潮の香ただよう 松浦 金子寿美

★目印の花のヒマラヤ山法師知人の家を教えてもらふ 南島原 田中よしみ

★山桃の熟るる頃には釣れ始むイサキねらひて船出す夫 壱岐 町田典子

★お茶だけは飲んできたけど残された大福二つ思う帰路なり 大村 溝田吉大

★金婚は人の世のもの村の滝は永久に変わらぬ夫婦滝なり 佐世保 小山雅義 

★カイワレ菜のちさきハートのほろ苦く我に力の湧きくる兆し 大村 辻 フミヨ

★海が時化うなる朝には放送あり定期便欠航は島の常なり 壱岐 下条憲廣

★陶工の声なき声に耳すます秘窯の里の風鈴まつり 松浦 舩原清洋


◎諧句 川田金太郎選

★霧雨にうす紅色の合歓の花 長崎 堤 貴美子

★傘寿来て決意新たに挑む山 長崎 堤 博俊

★一間置き湧く叫び声生きてやる 長崎 大枝翠峰

★テレビ前追悼式に手を合わす 長崎 道本暲江

★クラシック聴くと心が旅に出る 佐世保 鶴田竹一

★選者氏の心がわかる選者評 佐世保 小山雅義

★これぞ慈雨芋苗挿しに良き日和 佐世保 山田テル子

★老いてなお頼りにされる生き字引 佐々 法本安子

★跳ねる猫共に毛も舞う換毛期 佐々 衛藤佳奈子

★蜘蛛の網梅雨にも負けず獲物待ち 平戸 萩原博美

★まだ未練残るこの世にしがみつき 平戸 古川敏郎

★愛猫の人並み介護覚悟する 西海 上野久美子

★田植え終え並び眺める老いふたり 西海 田中加代子 

★愚痴を聞く猫も迷惑大あくび 壱岐 植村多恵子 

★まだ後期終期まではと夢を追う 長崎 荒井孝憲