6月23日放送の特選句が発表されていました。(6/24NHK俳句HP)

★蜜豆や老母恋しているらしい 福井県越前市 橋本美重子さん

 〈高野ムツオさん評、以下同じ〉母と二人で蜜豆を食べているとも、母が一人で食べているとも鑑賞できる。選ぶとすれば後者。蜜豆を一人食べながら、時々微笑んでいる。あんな笑顔は見たことはない。誰に恋しているのだろう。相手はこの世に居る人とは限らない。

★蜜豆も商店街も消えてゐた 大分県大分市 山川公司さん

 〈評〉かつて住んでいた街。商店が並ぶ昔からの通りがあって、美味しい蜜豆を食べさせてくれる甘味処があった。久しぶりに懐かしい味を堪能しようと街を訪れた。しかし、すべて様変わりしていた。そのショックがストレートに表現されている。

★冥王星のごとき蜜豆の黒 長崎県長崎市 入口弘德さん

 〈評〉器は暗めのガラス製。蜜も黒蜜。その上に浮かぶ賽の目切りの寒天が宇宙空間を形作る。赤えんどう豆や白玉は星の数々。さくらんぼが太陽ならみかんは三日月。食べ尽くす頃、底に残っていた大きく黒いえんどう豆が冥王星に見えた。

★蜜豆や乗るべきだつたあの誘い 鹿児島県霧島市 田口健さん

 〈評〉友と別れてから、何となく喫茶店に入った。なんとなく蜜豆を注文した。食べているうちに、さっきの楽しげな誘いを断った自分に嫌気がさしてきた。

★蜜豆の光を崩す笑ひ声 兵庫県神戸市 佐藤英子さん

 〈評〉女性同士で蜜豆を囲みながらのおしゃべり。しょっちゅう笑い声が巻き起こる。その声も匙も次々と蜜豆の光を崩してゆく。

★蜜豆を出してきたって許さない 大阪府箕面市 湯屋ゆうやさん

 〈評〉若い夫婦だろう。些細なことで口喧嘩をした。夫が機嫌直しに妻の好物の蜜豆を持ってきた。「許さない」と言いながらも、もうだいぶ許している。

★蜜豆や都電に揺るる喫茶店 長野県小諸市 藤 雪陽さん

 〈評〉行きつけの古い喫茶店。買い物帰りに二人で寄った。都電が通るたび店も蜜豆も揺れる。楽しげだが、危うさもある。同棲中の二人かも知れない。

★蜜豆や祖母は記憶の友と食べ 神奈川県海老名市 月夜田しー太さん 

 〈評〉自宅で缶詰の蜜豆を家族で食べている。夫婦は夫婦の、子供達は子供なりのおしゃべりに夢中。祖母は一人、微笑みながら今は亡い友と会話している。

★凸凹とみつ豆を蜜ゆきわたり 神奈川県横浜市 神野志季三江さん

 〈評〉注文して出てきた蜜豆を丹念かつ具体的に描写した。「凸凹」が盛り沢山で、美味しそうな蜜豆を映像化している。思わずごくりと唾を飲み込んだ。