6/24読売俳壇・歌壇。

(矢島渚男選)

★金魚の子飛び出すやうに動きをり 川口市 広田絹子

    【評より】水槽に入れたところか。元気な金魚で、動き回って飛び出しそう。

★走り根にヘルメット置く昼寝かな 横浜市 沼宮内 薫

    【評より】バイクばかりか自転車までへルメットの時代になった。

★夏帽子仏像好きの不信心 習志野市 加古隆男      

    【評より】現代人の寺廻りは信仰よりも、見物もしくは鑑賞であるが、そんな自分を客観視しているのであろう…夏帽子の季語で俳句になった。

★神主もリュックで祝詞山開き 館林市 篠塚勝晴 

★烏帽子つけ平和を祈るくらやみ祭 東京都 矢島和彦 

★田植機を眺めて飽きず下校の児 倉敷市 中路修平 

★太宰忌の反核署名簿に寅次郎 諫早市 麻生勝行

(高野ムツオ選)

★樺忌を忘れまいぞえ梅雨半ば 相模原市 荒井 管

    【評より】安保闘争デモで大学生樺美智子が亡くなってから六十年以上経つ。当日は梅雨最中の雨降りだった。 

★けふ千歩あすは二千步夏帽子 東大阪市 渡辺美智子 

 【評より】一万歩ではなくて千歩。 病経て、療養の日のスタートに違いない。

★寄り添ひてみな空仰ぐ金魚草 越谷市 金子宗彰 

 【評より】金魚に似た膨らみのある花をつける金魚草。風に揺れた時、いっせいに空へ向かって泳ぎ出したかのように感じた。

★青胡桃身を寄せガザの子の眼窩 東京都 斎木百合子 

★沖縄忌ひとりにひとつ喉仏

水戸市 加藤木よういち 

★黒揚羽せまし狭しと庭抜けて 土浦市 細井五男 

★ふた束の父母の恋文青嵐 川崎市 井手真知子

(正木ゆう子選)

★瞬きてまなこと判る青葉木菟 東京都 望月清彦

★草笛に耳裏返る岬馬 川越市 石田浩二郎

★休みなく子を励まして親鴉 千葉市 森田千代子 

★どの道を行くも麦畑 村に生き 群馬県 斎藤真紀子

(小澤實選)

★十二杯のジョッキをむんずMädchen(メジチェン)は 東京都 野上 卓 

 【評】いまだ少女のような女性でありながら、ビールがしっかり入ったジョッキを十二杯も一度に持って、テーブルへと運んでいる。さすが本場ドイツのビアホールである。

★蛇交むサッカーボールの大きさに 福島県 黒沢正行

★梅雨深し木つ端の匂ふ製材所 名古屋市 可知豊親 

★関鯖の脂醤油にぱつと散る 茅ヶ崎市 清水吞舟

★父よりも祖母のねばりや田植終ふ 神戸市 吉野勝子

★走り梅雨パン屋の匂ひ通りまで 牛久市 中村栄子 

(小池光選)

★仲良しがをらねば宿に一人ゐし修学旅行の「自由行動」青森県 田口昭子

 【評より】修学旅行の自由行動、友達がいなかったわたしは行きようもなかった。宿に一人残って待った…。

★母の日のプレゼントはこれとやって来てトイレ掃除をして帰る娘よ 芦屋市 宮本允子 

★畦道を自転車走らす女生徒にいまでも浮かぶ『青い山脈』 東京都 大室英敏

★去年までぽろぽろ泣くだけだった子の「いやだ」と言えるまでの成長 名古屋市 山本 望

★白猫が空き家の納屋に越して来ぬ白・白・茶色の仔猫を連れて 新潟市 古泉浩子

★「お母さん」ころりとメロン手渡しぬこの嫁(こ)もいつか五十を過ぎて 山形市 金山利子

(栗木京子選)

★ふるさとに夏が来たらし散歩する兄のスマホに郭公の声 新発田市 本田政嗣

★就職の祝いに部屋を交換す女孫は白、私はグレイの壁紙を貼る 埼玉県 斉藤末子

★あの可愛い坊やが八十一歳なのねダラスの叔母の返信メール 東京都 岸浪三蔵

★額(ぬか)伏せて呟くに湧きくる涙あり呑みこむ力ややに萎えゆく 甲府市 高瀬孝人

(黒瀬珂瀾選)

★ウクライナにもどる平和を祈りつつ一粒一粒ひまはりを蒔く 青森市 安田渓子

★編上靴(へんじょうか)上靴(じょうか)袴下(こした)のルビにも慣れ『きけわだつみのこえ』を読みゆく 大和郡山市 四方 護

 【評】旧陸軍用語には独特な読みが多い。そんな独自文化に馴染むことで、一般の若者たちは軍人へと変わっていった。学徒兵の遺書を読みつつ、彼らの心を思ったのだろう。

★四苦のうち三苦過ごしてあと一苦西方浄土は登り階段 東久留米市 程島次郎 

 【評】四苦とは「生老病死」。その三つを体験 して残りは「死」。とはいえ死もまた生の一段階、階段を登るように生きていきましょう。

★父逝きて涙なしただ独房の夜半に目覚めて眠れぬ身なり 仙台市 長岡義宏 

★越境せる隣の家の竹の子を灰汁抜きて帰す碁敵の家 前橋市 平林 始 

★直線で出来てる街に疲れ果て曲線のある人を眺める 守口市 小杉なんぎん 

★推しのこと「教祖」と言われまちがいじゃない気もするがまちがっている 那覇市 奥村真帆