墨(BOKU)第6号第7号(2)龍太一さんの俳句
(第6号より)
★超高層に迫る機影や九月来る
※2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を思い出させます。
★電車内慣性浮かぶ秋の蝶
※電車は快速なのに内部では普通の状態である慣性の法則を詠んだ句。1句目の「水の秋」もそうでしたが季語の斡旋が独特。
★天秤は恣意なき秤天の川
★度忘れは健忘辞書を引く夜長
★芋の葉に載る金剛の露の玉
※「露の茅舎」と言われた川端茅舎を意識してます。飯田蛇笏も露の句をたくさん詠んでいますからあるいは蛇笏もかも。
★灯も長き睫毛を具へ柚子湯の夜
★霜の夜の家霊に梁の軋むなり
★冬眠の寝息日向の雑木山
★人生は日々一頁初日記
★虚構にて真実かたる初芝居
※上の2句、確かに、と思わせます。
★独楽回す軸は自転の地軸めく
(第7号より)
★花の寵児たる蜜蜂に花粉の陽
★滴りは海の原点とこしなへ
※いつも景の大きさを心掛けている龍さんらしい作品。以前にも「天体は大きな柩渡り鳥」という句を拝見したことがありました。
★指紋から銀器は錆びぬ黴の家
★終りの始まり核の世の小夕焼
※核による人類の破滅は小さな火種から、という危機感ではないでしょうか。
★眠りても耳のみめざめゐる鹿の子
※俳人は微細なところにも凝視の目を向け小さな命を俳句に詠みます。
★誰にでも地球は母胎蝉の穴
★朗々の老鶯雨の信濃口
★天地創成滴りのひとしづく
※そうですね、上の3句目の通り「滴りは海の原点」ですからね。
★地球こそ人類の家みどりの夜
★人類の長居の地球かたつむり
※第6号の遅着について、お手紙に「昨年暮れには『俳句に於ける著作権の研究』の出版に向けて(中略)精一杯の状態にあり…」とありました。龍さんは80歳か81歳ですが、大変精力的に前進を心掛けておられます。そういうところも我々の理想とするところでもありまた希望でもあります。頭が下がります。