6/16朝日俳壇・歌壇。

◎大串章選

★迂回路も人生の道月涼し(鎌倉市)江刺家 徹

★爆撃は遠隔操作蠅たたき(横浜市)佐藤 満

★通訳のいらぬ鳥語や明易き(さいたま市)池田雅夫 

    【評より】鳥の鳴き声は聞いているだけで楽しい。

☆戦地めく蟻のむくろを蟻運ぶ(東京都世田谷区)石川 昇

 ※高山れおな共選。

★いま吾と蝸牛に流れゐる時間(高山市)大下雅子

★母と見る虹よ余命の宣告後(高松市)島田章平


◎高山れおな選

★誰よりも白シャツ似合ふ人逝けり(玉野市)北村和枝

★転げ落つる土手の遊びや夏来る(神戸市)田代真一

★育休の息子の淹れる新茶かな(京都市)山本京子 

★きつちりと編みたるレース遣されし(札幌市)小林かん奈

★よき米となれよき水の植田澄む(筑西市)加田 怜


◎小林貴子選

★片蔭や優しい方が蔭譲る(柏市)篠原申八

★そう言えば今日は父の日どうもです(橿原市)上田義明


◎長谷川櫂選

★叢に天女かしらん蛇の衣(富士市)村松敦視

★潮騒のむこうは四国麦の秋(豊前市)三原逸郎 

 ※豊前市は福岡県東部の市。

★中学生白黒二色更衣(長崎市)下道信雄

★細ければささやきとなり山清水(各務原市)市橋正俊

★はまなすや流人も仏も石ひとつ(柏市)正野貴子

★龍が玉銜へたる能登青嵐(羽咋市)北野みや子

★波砕け一目散に子亀ゆく(京都市)室 達朗

◎佐佐木幸網選

★「歌壇」への投稿三十余年経つ教え子の死が切っ掛けなりき(舞鶴市)吉富憲治

★リモートの健康体操飼い猫がたまに横切り先生笑う(東京都)伊東澄子

★校長室に一人でいるのが寂しくて事務室にいる女性校長(オランダ) 宮沢 洋子

★嫁ぐ娘の「寂しいやろ」と繰り返す母娘最後の苺のタルト(大垣市)立川 昌子


◎高野公彦選

★あまづたふ太陽フレア生れし日にオーロラあらはる珠洲の空にも(横浜市)松村千津子

 【評】被災した珠洲市を慰めるかのように浮かんだオーロラ。

 ※5月11日夜、奥能登の隆起した海岸線の向こうにオーロラが発生した。

★瀑(たき)を背に旋回、反転、採餌する燕幾百新緑を見ず(逗子市)織立敏博

★「今が一番ラブラブなの」と認知症の夫君と手つなぎ散歩す友は(下野市)若島安子

★高齢者介護が仕事「長生きをし過ぎました」を聴くのは寂し(横浜市)桑田よし子

★図書館にモグラ退治の本選れば「動物は友」のコーナーにあり(市原市)笠原英子

★「死鬼不夢(シオニズム)」と書いて抑える腹の虫いつまで続く残虐非道(五所川原市)戸沢大二郎

★孤独死の手前に孤独な生がある、とは思わない思いたくない(川崎市)小暮里紗

★子育ての喜び言わず大変さ強調する世に少子化進む(京都市)中尾素子


◎永田和宏選

★やった感出してる夫に心中で「わたしは毎日やってますけど」(岐阜県)箕輪富美子


◎馬場あき子選

★はつなつの「風通し」さるる三十三万余の哀しき原爆死没者名簿(鹿嶋市)大熊佳世子

★後輩の相談を聞くカフェにてたてまえ少しそのあと本音(富山市)松田梨子 

★水まきをすれば葉かげに隠れいし家守出で来て水を舐めおり(観音寺市)篠原俊則

★多摩川を渡る電車を眺めをり介護施設に入りて五日目(多摩市)柳田主馬