6/11読売俳壇・歌壇。

(矢島渚男選)

★もう風に見つかるかたち淡竹の子 堺市 椋本望生

 【評】淡竹は細いが旨い竹の子。「風に見つかる」は魅力的だが解釈が難しい。風にそよぐまで大きくなって安心。人に見つかっても大丈夫 ? 

★いつハヤになるかと聞かれメダカ飼う 太宰府市 内田典子

★手話うまきヘルパーが来て沐浴す 飯田市 井原 修

★植えるでも捨てるでもなく余り苗 石岡市 斎藤あきら

★やわらかに結ぶ風呂敷さくら餅 総社市 風早貞夫 

★朧夜や死にゆく母の肌真白 大津市 Baker素子

(高野ムツオ選)

★黒々と巻くもの動きやがて蛇 大月市 米山明博

★のそり迫りひらりと交む蟇 東京都 朝田黒冬 

 【評】「ひらり」の擬態語が意外性に富む。雄同士の争いの果て、やっと雌の背中にしがみつくことができた蟇の満足そうな顔が目に浮かぶ。 

★薫風や古地図のままの藍の町 吹田市 前田尚夫

★笑ふ目が口より覗く祭獅子 白井市 毘舎利愛子

★全方位自由自在や夏燕 入間市 松原正憲

★白鷺よ我につばさを貸し給へ 東京都 東 賢三郎

★孤独とは列を離れし蟻の如 東京都 鈴木真理子 

(正木ゆう子選)

★雨一滴土にまみれる夏の畑 横浜市 作山大祐

 【評より】地面に落ちた雨粒が土を纏いつつ転がる。辺りに立ちのぼる埃と太陽と水の匂い。 

★母の日や何故批判したんだろうか 東京都 駒形光子

★花の雨窓辺の好きな猫とゐて 神奈川県 中島やさか

★弾みつけ牛立ち上がるクローバー 東京都 山口照男 

★田を植ゑて父母に仔細を告げにゆく 尾鷲市 中村東太 

★夕焼や夕餉弁当来る時間 川崎市 堀尾笑王

★友くればステテコの夫隠す妻 下妻市 神郡 貢 

★エメラルド婚のゑんどう豆ごはん 高岡市 野村あけみ

★熊の糞らしきもの踏む蕨採り 湯沢市 西村良子

(小澤實選)

★競輪の予想屋でありバナナも売る 栃木県 あらゐひとし

★筍の鋲のあたりへ止め刺す 大阪府 池田寿夫

★桑の実に関を挙げたる烏かな 津市 中山道春

★この町の最後の本屋燕の子 川越市 横山由紀子

★銭湯の一番乗りや夏立つ日 松山市 久保 栞

★いつもより重きゴミ出し竹の皮 海老名市 武田元子

★薄墨のひれを震はせ黒目高 鹿児島市 鶴屋洋子

★初鮎や亡父の好物我も好き 大和市 岡崎毬子

★ブルースとバーボンロック春の宵 長野県 村田 実

(小池光選)

★恋知りし旧軍港の坂の道十七歳のあなたを待っ た 下関市 森 利治

★無為な日を過ごした夜に志ん生の「火焰太鼓」 を聴きつつ眠れり 海老名市 中村富美子 

★夜たけてひとり覚めをり亡き父母に抗ひし日々思ひてかなしも 笠間市 八雲 辰

    【評】作者は95歳の方。その歳になって亡き父母を偲ぶ。いろいろ反抗したこともあった。思えば万感迫って、かなしい。 

★百円の旅をしようよ自販機のジュースを買って海を見に行く 鳴門市 楠井花乃 

★退院は連休あとと聞きたるに五月五日の真白き柩 熊谷市 田島良生

★青葉とはかくも鮮やかだったかと手術して知る春の歓び 横浜市 桃井恒和

★牛乳にきな粉を入れて飲んでいる母のしていたことを真似して 養父市 正垣千都留

★長旅のつかれも見せず古き巣を二羽のつばめは繕ひにけり 足利市 熊田敏夫

(栗木京子選)

★高齢者が若きに席を譲りおりカバンにヘルプマークを見つけて 大津市 松井美枝

★令和には戦友会の旗も消え百連隊の霊は転進 四街道市 大熊真春

    【評】「転進」は軍隊が拠点を捨てて他に移ること。「退却」の代わりに使われた。戦友会が消えてゆく今、戦死した霊はどこに向かえばよいのか。苦渋の念がひびく歌である。 

★デコちゃんの生誕百年映画祭笑い泣き声拍手沸 くシアター 東京都 山本由美

    【評】今年は女優の高峰秀子氏の生誕百年。さまざまなプロジェクトが実施されている。「デコちゃん」の呼び掛けがあたたかい。

★色白の姉逝きませり色黒の吾残されて対は欠けたり 佐倉市 斎藤千寿嘉 

★夕風に「今日は菖蒲湯」の紙ゆれてこの町に残るひとつの銭湯 吹田市 辻井康祐 

★薔薇の咲く五月に友を招こうと支柱を立てて消毒に励む 龍ヶ崎市 日野林佐智子 

★普及にと点字封筒渡されたり凹凸が生む言葉に触れる 松江市 三方純子

★白昼に闇の一筋走り来て師の死知らする電話鳴りけり 兵庫県 上原 隆 

★プードルは最期の力ふりしぼりトイレをすませやすらかに逝く 宮崎市 木許裕夫

(俵万智選)

★たけのこの季節になればどこからもこだまのようにたけのこ届く 和歌山県 助野貴美子

★再入場できぬと書かれた美術展を出て日常に再入場す 東京都 武藤義哉 

(黒瀬珂瀾選)

★泣き止まぬ吾子の心を抱き寄せて夜風に揺れるこぐま座を見る 熊本市 貴田雄介

★初給料もらひし孫より二十枚のはがきが届く投稿してねと 宇都宮市 武藤さちこ

★老人は死ぬまで老人元気よく老人のままこの道をゆく 対馬市 神宮斉之

★紅顔の七つ釦の軍服の遺影の褪せて昭和の日来る 町田市 谷川 治

★「茶柱が立ってますよ」と教えたら頑固ジジイがちょっと笑った 東京都 渡辺貴子