6/9朝日俳壇・歌壇。

◎長谷川櫂選

☆晩年や何を今更更衣(苫小牧市)齊藤まさし

 ※小林貴子共選。

☆籐椅子に座したるままに逝きし人(東京都文京区)前田寿子

 ※小林貴子共選。

★輪に結つて茅(かや)神々し夏祓(東京都世田谷区)松木長勝

★溝浚へかつて鮒など獲れし川(野田市)松本侑一

★田植笠バーベキューにもよく似合ふ (下呂市)河尻伸子

★開拓碑かこむ美田や麦の秋(春日部市)池田桐人

★上手に飲めとラムネの玉に言はれけり(境港市)大谷和三

 【評】あおれば玉が穴をふさぐ。難しい玉なのだ。


◎大串章選

★背嚢に黄砂を載せて父帰る(上尾市)清水昇一

 【評】父上は中国北西部から帰還されたのか。

★田植え機に老農一人過疎の村(茨城県河内町)吉村 巌

★万緑をゆする支援のコンサート(横浜市)大井みるく

★世を隔て亡き母と汲む新茶かな(大村市)小谷一夫 

★一人住む友の藁屋根燕来る(松江市)寺本 章

★この町の最後の本屋燕の子(川越市)横山由紀子


◎高山れおな選

★戦争に生き残りしはガザの蠅(狛江市)松本 遊

 【評より】三橋敏雄の〈戦争にたかる無数の蠅しづか〉は戦争を観念として捉えた傑作。松本さんの蠅はより生々しいクローズアップという感じ。

★ガンマンのごと立つ農夫麦の秋(伊万里市)萩原豊彦

★命あるものは灯を恋ひ火峨も亦(玉野市)勝村 博


◎小林貴子選

★植樹祭中村哲をふと偲ぶ(川口市)青柳 悠

★慈愛とも怒りとも夏のオーロラ(三島市)高安利幸

★太陽の怒りの大爆発の夏(八王子市)額田浩文 

★スケボーに傷の数多や夏の空(松原市)たろりずむ

◎馬場あき子選

★二の川と交わるところ月の夜の四万十川に大魚跳ね飛ぶ(四万十市)左山 遼

★二千人逮捕されても反戦の声高らかに米の学生(取手市)緑川 智

★庭隅の枯木の洞を出で来たる蜂は授粉すキウイの咲きて(前橋市)荻原葉月

★「初採りの空豆短歌になるんちゃう?」ばあちゃんが言う簡単に言う(奈良市)山添 葵

★田に水の満ちゐし夕べ芹の香と蛙の声をあてに呑む酒(北海道)高井勝巳 

★小千鳥の遊ぶ埠頭の春の海はるか国東の山並の見ゆ(光市)永井すず恵

★はるかなる子育てのころをなつかしみひとり居に食むよもぎかしわ餅(福山市)金尾洵子


◎佐佐木幸綱選

☆流鏑馬の一瞬の間に駆け抜けて尻尾ばかりがスマホに残る(宝塚市)寺本節子

 ※永田和宏共選。

★百畳の和紙で拵へし大凧は薫風に舞ふ春日部の空(川崎市)寺尾和仳斗

 【評】春日部の大凧あげ祭りである。結句に地名を入れて愛唱性のある作になった。

★欄干の無き橋渡る人がいる四万十川の清き流れよ(さいたま市)関口光江

★桜咲きて田に水の入るわが町に新しき人のジョギングの音(北海道)高井勝巳 

★手話駆使し見える楽曲奏でだす子供主体のハンドコーラス(石川県)瀧上裕幸

★放棄田にするよりはマシ移住者に貸した田んぼに合鴨のヒナ(対馬市)神宮斉之

★今朝もまた猫をかぶった野良猫が庭先で待つ喉を鳴らして(川崎市)和泉明宏

☆昼食もフォトスポットもお土産も恐竜づくし福井の旅路(富山市)松田わこ

 ※高野公彦共選。


◎高野公彦選

★さあ逃げろ疲れた我をそそのかす風光明媚なJRポスター(横浜市)太田克宏

 【評】作者は、高齢者施設で働く介護職員。ふと目に入ったポスターの誘惑を詠む。

★ぐらぐらの歯を見せに来る子の口の角度はツバメの雛とおんなじ(奈良市)山添聖子

★ガザの子の白黒写真と目が合いぬ葱包まれし新聞畳む(佐伯市)川西敦子

★三ヶ月に一度の受診船で行くそれも楽しみ島に住む吾(東京都)三輪裕子

☆えらそうに言っちゃうときもあるけれどごめんね全部思春期のせい(奈良市)山添 葵

 ※永田和宏共選。


◎永田和宏選

★ふきのとうこぶしそれから桜へと早送りする下山の道は(滝沢市)田浦 将

★三分で水俣病の苦しみを述べよカップラーメンではない(高松市)島田章平

★「爆撃で死ぬなら家族一緒がいい」ガザの家族は一緒に寝たり(八王子市)額田浩文 

★運ばれた母より胎児取り出され生まれながらに孤児となりし子(川崎市)宇藤順子

★原爆は「そりゃあもう」と絶句して後を続けず逝きしヒバクシャ(アメリカ)大竹幾久子

★食べ物を粗末にするなと言いたいがヒマワリの種のシャワーは許す(西海市)前田一揆


◎「うたをよむ」

◎「風信」欄