◎俳句 秋尾敏選

★コードレス時代の蛇がとぐろ巻く 佐世保 牛飼瑞栄

★老い二人十二アールの籾を播く 日田 川津裕子 

★前にしか進めぬ蛇のしつぽかな 伊万里 田中秋子

★み吉野の桜浮世を引き寄せる 粕屋 富永素光

★誰憚らずマネキンの更衣 大野城 荒木信夫

★命日は黄泉を見つめて梅酒かな 福岡城 大滝幸雲 

★葉桜やプラットホームだけの駅 八女 上島 厚 

★夫の歩のようよう元に五月来る 久留米 田中敏子


◎俳句 星野椿選

★桐の花真青な空を迷ひなく 福岡東 下村幸子

★山々が近くに迫る青葉かな  福岡西 内藤幸生

★これよりの月日は如何に更衣 福岡東 堀江昭子

★夏告ぐる祇園太鼓の響かな 太宰府 入江眞己子

★静けさや雨に煙れる菖蒲池 福津 藤吉靖信

★菜の花の水明りして筑後川 朝倉 林 正子

★どんたくや最高潮の総おどり 太宰府 福永惠美

★母の日の父にも届く贈りもの 大野城 荒木信夫②

★石楠花や谷を流るる水の音 大牟田 杉野博子 


◎短歌 伊藤一彦選

★食べ慣れたおかずと並ぶ箸置きのおどけたひょっとこ夫によく似る 糸島 森脇由利子

 【評より】(同時作)「夕士度はじめる厨の箸置きのおかめの笑みのわれによく似て」。結婚38年。

★付き合ひは六十年と五十年 どちらも大事、酒と女房 大野城 高名 稔 

★たっぷりの宿題のこして父母逝けりマル・バツ・サンカクあの世で受けむ 福岡早 宮村美千子

★ネモフィラのブルーのようなやさしさを持ちて生きたし盛りなる春 添田 長尾孝子

★藤の花のかんざしゆれる舞妓さん幼い笑顔に風やわらかく 福岡西 津田照葉

★「俺への挽歌、うたわなくなったな」と亡き父かなしく仏間で呟く 直方 大石聡美


◎短歌 栗木京子選

★ATMに行員三人走りくる操作ミスした吾を囲みて 福岡早 宮村美千子

★野の山をわらび求めてぐんぐんと夢の中では祖母たくましき 糸島 川上由美子 

★啄木の命日なりき今日晴れて市立図書館で歌集ひろぐる 大野城 高名 稔

 【評より】石川啄木の命日は四月十三日。

★夫逝きて名義変更に疲れ果てわれを侵すは帯状疱疹 福岡東 柿原敦子

★若葉風両ほほに受けてウォーキング狸や鹿に時々会えり 日田 穴井登美子

★五月雨のからりと晴れてバラの木に黒揚羽くるあなたの忌日 福岡東 堺 多鶴

★麦の田の麦よりさきに稔りたる燕麦があり山裾の道 福津 佐々木和彦

★夏の夜をひとり読みつぐ文庫本ときには吾に若さを求む 筑紫野 横山美惠子

★庭畑に日々伸びゆくを楽しみて胡瓜の黄の花今朝もかぞえる 八女 倉員世紀子 

★野の草についてわが家へやって来た蟻のとまどう未知の砂糖に 福岡西 木村陽子


◎詩 平田俊子選

「宣言」福島県 横山ひろこ


ワタシのオットは

亭主関白ではないが

車には目がない

知らぬ間の契約は

これで2度目

高級車は「これっきり」と 言ったはずだったのに

そのお車は

ワタシが買おうかどうか 

迷っていた春コートの625倍


膝から崩れ落ちそうだった

もう迷わずワタシも 

イオンで買ってきた


そのお車以上に

着倒してやるわ 

春コート 

625人前を