俳句ポスト365 兼題「山笑う」の月 中級者以上 木曜日結果発表【特選】

★山笑ふ窯火へ埴安の息吹 葉村 直

 〜(夏井先生の選評全文。以下同じ)日本神話によると、「埴安(はにやす)」は、土をつかさどる神で、イザナミの大便から生まれたともいわれています。「山笑ふ」頃、陶器を焼き上げる窯は、今、轟轟と火を噴いています。まるで、土の神「埴安」の「息吹」であるかのような火は、太初の匂い。この世が産み落とされたかのような熱気に、圧倒される春の窯場です。


山笑ふごろごろ水が巡りをる

 〜(夏井先生の選評全文。以下同じ)「ごろごろ水」とは、奈良県吉野の洞川温泉湧水群の一つ。カルスト地形の地下水が、ごろごろ音を立てて流れることから命名されたそうです。「山笑う」春になると、地中を水が巡りだすよという一句ですが、中七「ごろごろ水」という名前が愉快な効果を醸し出します。下五「巡りをる」という描写も絶妙な巧さ。ごろごろ水が巡りながら、春という季節が動き出します。


★山笑ふ雲の寿命は三十分 しゃれこうべの妻

 〜(夏井先生の選評全文。以下同じ)中七「雲の寿命」というフレーズそのものが詩の言葉です。作者からの情報によると「春によく見られる積雲、わたぐもは30分くらい」の命なのだそうです。科学的裏付けが付くと、詩そのものが更にパワーアップします。「山笑う」頃、様々な生き物の命が地上には萌え出します。空の上では、雲たちが短い命を形作っては、次々に消えていきます。


◎次回兼題「南風(みなみ)」


 三夏/天文。夏の季節風。南から吹く、あたたかく湿った風である。南風と書いて「みなみかぜ、みなみ、なんぷう」などと読み方が様々ある。「みなみ」は主に関東以北の太平洋岸の風を指す。

 傍題:南吹く・南風(みなみかぜ)・南風(なんぷう)・正南風(まみなみ)・大南風(おおみなみ)(傍題の使用も可ですが、まずは兼題と真正面から取り組んでみてください)。


募集=5月20日〜6月19日。