5/26放送のNHK俳句の特選9句発表 5/27(月)NHK俳句HP


◎題「電車」

◎選者は高野ムツオさん

★おぼろ月経由ふるさと行き電車 神奈川県横浜市 三玉一郎さん

 〈評〉電車が一両、目の前を通り抜けていった。空には朧月。故郷が急に懐かしくなった。今の電車は、もしかすると空を飛んで、朧月を経て故郷へ運んでくれる電車だったかもしれないとふと思った。春の夜のロマン溢れる幻想。

★電車なき電車通りや昭和の日 愛知県岡崎市 古川晴野さん

 〈評〉かつて市電が走っていた道路。親しみを込めて誰もが電車通りと呼んだ。やがて、市電は廃止となった。だが、呼び名だけは残った。市電を利用した人もやがては消える。それでも「電車通り」は残る。そう、昭和の日に思った。

★電車つて熱帯魚だと思はない? 千葉県市川市 岡本恵さん

 〈評〉山手線はウグイス、京浜東北線はスカイブルー、中央線特快はオレンジ。時に行き交い、時に並んで、時に素早くカーブを曲がる。ぶるぶる車体を震わせたり、ゆっくりホームに滑り込んだりする。熱帯魚の仲間?そう断言できる。

★エイプリルフールの電車空ぐらい飛べ 熊本県熊本市 夏風かをるさん

〈評〉何かフラストレーションが溜まっていたのだろう。それでも、いくら四月一日でも、それは無理な要求だという電車の声が聞こえてきそうだ。

★麦秋やここから電車単線に 福岡県糸島市 平山仁彦さん

 〈評〉ローカル線、途中から複線が単線になる。上り電車の待ち合わせ時間だろう。一面に広がった麦畑から麦の匂いがしてきそうだ。

★春風や電車が電車待つている 愛媛県松山市 山内貞市さん

 〈評〉単線のローカル線。上り下りのすれ違いのため、電車が止まった。「春風」が効果的で、まるで恋人が恋人を待っているかのようである。

★葉桜や市電の跡のなくなりぬ 岐阜県岐阜市 渡辺一成さん

 〈評〉市電が廃止になり、しばらくの間、痕跡が道路に残っていた。工事が繰り返され、その跡も消えた。葉桜だけは往時と同じように音を立てている。

★東京の虹を行き交ふ電車かな 新潟県新潟市 葦屋蛙城さん

 〈評〉虹の下を行ったり来たりしているということだが、こう省略されて表現されると、虹の中を出入りしているように錯覚してしまう。言葉は魔法である。

★八月の雨を回送電車ゆく 東京都墨田区 大黒富々さん

 〈評〉たまたま雨の日に回送電車に出合ったということだろうが、やはり、ここでも「八月」という設定がものをいう。様々なドラマが想像可能だ。