5/27毎日俳壇・歌壇。

(小川軽舟選)

★缶蹴りの缶のへこみや春夕焼 平塚市 高橋佳代

★春の野に手紙燃やして狼煙とす 下松市 水津かと 

★白タオル干せば眩しや夏兆す 盛岡市 福田栄紀

★街灯の電球暗し赤蛙 館林市 坂口いちお

★一人浮く千人風呂や山笑う 青森市 天童光宏

★依存の雨止むを待つカウンター 東京 高木 靖之

(西村和子選)

★終電の行つてしまひし遠蛙 岸和田市 妙中 正

★靴底に触れて弾みぬ春の土 藤枝市 山村昌宏

★遍路笠置けば生国尋ねられ 八街市 山本淑夫

★田を植ゑて風のたひらに吹く日かな 川越市 峰尾雅彦

★教室の窓は全開麦の秋 大阪市 浜崎美智代

★鹿尾菜刈る轟く濤を従へて 霧島市 秋野三歩

★手を取れば歌ひ出す子や聖五月 郡山市 井上 博

(井上康明選)

★龍神の水汲む八十八夜かな 東京 山口照男②

    <評>八十八夜は5月2日ごろ。豊穣をもたらすとされる龍神の水をくむ八十八夜は全ての生命が生き生きと育まれる時節である。

★一声を置き去りにして閑古鳥 川越市 峰尾雅彦②

★地方病終息の碑や青あらし 甲府市 清水輝子

    ※「地方病」とは日本住血吸虫の寄生による寄生虫病。100年程前に、山梨県甲府盆地、底部、茨城県利根川下流域、広島県芦田川流域や深安郡片山地区、福岡県筑後川下流域、佐賀県の一部などごく限られた地域にのみ存在した風土病。その流行終息宣言が出されたのはは何と平成8年(1996)2月19日であった。それを記念して山梨県昭和町押越記念碑が建てられた。現在は昭和町の杉浦醫院内に移設されている。

★雨あとの水田の濁り豆の花 千葉市 畠山さとし

★河口には水門一基花あふち 延岡市 九鬼 勉

★夏蝶の螺髪に羽を休めをり 筑西市 大久保朝一

★初打席初本塁打山笑ふ 仙台市 鎌田 傑

(片山由美子選)

★自転車を降りて挨拶豆の花 神奈川 中島やさか

★したたりの次を待つ間の鳥の声 小平市 齋藤幸枝

★親鳥の入れ替りたる浮巣かな 土岐市 水野雅子

★一粒に微笑みひとつさくらんぼ 高知 渡辺哲也 

★一日は雨に暮れたる竹の秋 姫路市 板谷 繁

★通学の自転車の列若葉風 野田市 押江成行

★二度三度跳びて飛びたつ巣立鳥 北本市 萩原行博

★山滴る一直線に新幹線 平塚市 日下光代

★母の日や母に告げたき吾が齢 和歌山市 津田倭文香

★日だまりに焔めきたる牡丹かな 奈良 高尾山 昭

(米川千嘉子選)

★わたくしのすべての顔を見たはずの見たことのない夫の横顔 東京 目地前さち 

    <評>長く暮らす夫婦。相手にどれほどを見せ、相手のどれほどを理解しているだろう。ひんやりと複雑な味わいの歌だ。 

★恋文を書くやうに鳴くうぐひすにひそけくひとを想ひてゐたり 成田市 神郡一成 

    <評より>ウグイスの美しい声に誘われる思いがある。

★掛け持ちで四つの仕事自転車であっけらかんと友は働く 河内長野市 寺田愛子

★まだ若い面接官と向き合えり (俺もこうやって 人を撥ねたよ) 宇治市 清原茂樹

★チーバくんの鼻をくすぐる故郷はかすかに醤油の香りがしてた フランス 小仲翠太 

    ※「チーバくん」は、千葉県マスコットキャラクター。2010年開催のゆめ半島千葉国体ゆめ半島千葉大会のキャラクターとなった。野田はキッコーマン醤油で有名。

★希少糖探るつもりで噛んでみる小葉の髄菜の五月の若葉 静岡市 小川健治

★亡き夫が好んだベンチに違う人居て上書きをされゆく世界 大阪市 鈴木雅子

(加藤治郎選)

★防弾の装置のような勢いでバフォンと激しく開く雨傘 広島市 堀 眞希

★わかるよと言ってはくれない親友のテトラポ ッドのような頬杖 武蔵野市 北谷 雪

★天使の輪もらえなかった僕たちがたばこの輪っかをつくる屋上 東京 石川真琴 

(水原紫苑選)

★学校の近くに海があるせいで海まで走る授業があった 松原市 たろりずむ

★花束の価値をひととき見失ふ海原のごと咲(え)むネモフィラに 横浜市 永永キヌ

(伊藤一彦選)

★身動きは大きなうねりとなり届く満員電車の波打ち際へ 柏市 遠野 鈴

★あの時のあの一言で生きている友人はタカラ、言葉はチカラ 福岡市 川波 麗

★父はまだ麻酔が効いているらしいようやく体休められたね 横浜市 谷口菜月


◎句集紹介 櫂未知子

◆大木満里『夏祓(はらえ)』 第1句集。 小学校の教員としての日々の中で生まれた、すこやかな作品に心が洗われる思いがする。

★放課後の机にひとつ夏帽子

★赤ペンを箸に持ち替へ夜食かな

★青竹の打ち交ふ空や墓洗ふ

★隙間なく卒業の椅子並べけり

 (ふらんす堂・2970円) 


◆三石知左子『小さきもの』第1句集。小児科の医師として、家庭人として対象に向けたあたたかなまなざしが随所に光る一冊。 

★学会といふ暇(いとま)得て十二月

★赤子とて男の子の匂ひ梅雨に入る

★小児科の七夕竹のやや低め

 (朔出版・2750円) 


◆阪西敦子『金魚』第1句集。幼少期から作句していたという著者の、こなれた表現の数々が印象的。

★金魚揺れべつの金魚の現れし

★秋の夜をうらに返して雨となる

★水鳥の羽爛々(らんらん)ととぢにけり

★香水を濃く幻に飽きやすく

 (ふらんす堂・3080円)