5/26朝日俳壇・歌壇。

◎高山れおな選

★曳き別れゆく山車の灯の揺れ朧(高山市)大下雅子

★喜寿にして買ふ入門書「薔薇の庭」 (栃木県壬生町)あらゐひとし

★五月富士本日日本営業中(川越市)横山由紀子 

★陰陽師の如く蛙は天仰ぐ(一宮市)岩田一男

★筍を奪い合ふ日々猪と (長崎市)下道信雄


◎小林貴子選

★春の雨女傘にて夫帰る(柏市)藤嶋 務 

★半袖や句会にはかに夏めきぬ(深谷市)横澤芳一

★黒鯛も黒鯛なりに恋の色(川崎市)しんどう 藍

★母はなく母でもないがカーネーション(南国市)楢本なおみ


◎長谷川櫂選

★戦争を忘れぬ為の昭和の日(筑紫野市)二宮正博

★雲の峰夏が楽しくありし頃(川越市)大野宥之介 

★死ぬはよし寝たきりはいや草を引く(三田市)橋本貴美代

★春愁を抜けし一日マティス展(松戸市)橘 玲子 

★九頭竜の鮎釣り並ぶ同じ顔(敦賀市)中井一雄 

★脳天を貫く辛子初がつお(松阪市)石井 治

★まどろむは巣落ちの雀たなごころ(下関市)清水幽人

★春潮や地引網にも深海魚(西東京市)高橋秀昭

★戦争を止めぬ大人や子供の日(岡山市)曽根ゆうこ


◎大串章選

★ぴかぴかの駅にきらきら風光る(香芝市)土井岳毅

★望郷の外人墓地や若葉風(大和市)荒井 修

★廃屋と見られたくなし剪定す(川西市)糸賀千代

★少年の眼や大人びて風光る(船橋市)斉木直哉

★桑芽吹き蚕(こ)飼ひに暮れし母をふと(前橋市)荻原葉月

★夫の柩を見ているふしぎおぼろの夜(福山市)津田重子

★詰襟とセーラー服や春堤(須賀川市)関根邦洋

◎高野公彦選

★この頃は「さんぽの前田さん」と言う人いて散歩歷三十五年 (中央市)前田良一

★飯が旨いうちは大丈夫と笑ふ老 珠洲の塩づくり諦めぬと言ふ(鹿嶋市)大熊佳世子

 ※室町時代に始まった日本では数少ない製塩法、あげ浜式製塩。国の無形文化財で世界農業遺産です。現在、伊勢神宮と能登半島珠洲のみ残っている。

★筍を掘りて水煮を配りおり夫が一番好かるる季節(安中市)岡本千恵子

★草原に埋もれて脚を狙い撃つ狡猾極まる「花びら地雷」(札幌市)田巻成男

☆原爆の惨状描写なきことが何より怖い「オッペンハイマー」(東京都)八巻陽子

 ※永田和宏共選。

☆気がつけば入社3年目後輩に悩みもたまに打ち明けられて(富山市)松田梨子

 ※永田和宏共選。

★バイトせし茗渓書店すでに無く書肆あまた消ゆ御茶の水より(さいたま市)伊達裕子 

★檳榔の先に鎮まる海のあり一村の絵の奥はあたたか(我孫子市)森住昌弘

  【評】奄美大島に移住して画業に励んだ田中一村(1908〜1977)を讃える歌。

◎永田和宏選

★すれ違ふ紋白蝶はわれがまだせざる脱皮といふものをせり(和泉市)星田美紀

☆探しものする春休み思春期は漢字で書くとちよっとかわいい(奈良市)山添 葵 

 ※佐佐木幸綱共選。

★日本へはもう帰れない体力で二人の孫と並びて撮られる(アメリカ)ソーラー泰子

★鄙の里水車を回す春の水移住の子らと水路の掃除(対馬市)神宮斉之


◎馬場あき子選

★命乗せ真つすぐ北へ山峡の峠越えゆくドクターヘリよ(松山市)宇和上 正

★AIが作戦を立て命令し生身の兵士が戦う悪夢(三鷹市)山縣駿介

★屈強の中に女の声高く近海ものの金目鯛を競る(三浦市)秦 孝浩

★春耕に出でし野ねずみ白鷺が丸呑みにせりまたたくうちに(山口市)藤井 盛

★県庁まで直進二キロのわが庭に鹿のあらわれ息がつまりぬ(盛岡市)山内仁子 


◎佐佐木幸綱選

★半壊の家に出入りする燕知らぬや主の避難せしこと(七尾市)田中伸一

★そろばんと計算尺で軍艦の設計もせし逆巻きし昭和(長崎市)下道信雄 

★行くだけでくたびれさうな遠い能登「ボランティア」した息よありがたう(船橋市)大内はる代

★粗大ゴミ置場にあった車椅子歩いて捨てに来たならいいが(東京都)牧田涼子

★つひに来た「ネットで投稿できます」が百十四歳の朝日歌壇に(町田市)村田知子 

★一畳の寝床に僅かな荷を広げ雲水たちの修行始まる(戸田市)蜂巣幸彦


◎「俳句時評」芭蕉の感情表現 岸本尚毅

「俳句時評」は後日読みやすいようにしてまた投稿します。