5/20読売俳壇・歌壇。

(矢島渚男選)

★ビートルズのレコードに傷春惜しむ 弘前市 長利冬道 

★海峡の潮目定かに夏立ちぬ 松山市 高山洋子 

★封人(ほうじん)の家の婆っちゃん春炉焚く 桐生市 杉戸乃ぼる

 ※「封人」=国境を守る役人、また国境に住む人。(「封」は境界の意)。

 【評より】奥の細道で泊った封人で、芭蕉は「蚤虱馬の尿する枕もと」を作った。ている。この句、親しみを込めた「ばっちゃん」がいい。 炉を焚いて老婆が迎えて呉れた。

★風呂場から九九の声する四月かな 浜松市 久野茂樹

★行く春を惜しむ平和な山河なり 神戸市 倉本 勉

★法被着せ棺に桜笛師逝く 狭山市 清水政美

★畦塗りのまづ田の神へ一礼す 日高市 金沢高栄

(高野ムツオ選)

★長閑さやここにはあってガザにない 高崎市 枝窪俊夫

★花の山車(だし)わんさわんさと往還へ 埼玉県 小鹿原君江

★氏神の定めしところ蕗の薹 江別市 北沢多喜雄 

★電線のどこまで続く花林檎 深谷市 大橋松枝 

★囀やつっかえながら七の段 春日部市 相沢明子

★ごつい幹ごつい根つこや花万朶 青森市 小山内豊彦 

★篝火に引き寄せらるる飛花落花 仙台市 鎌田 魁

(正木ゆう子選)

★お使ひは買物籠よ昭和の日 横浜市 岡 まゆみ

★よく晴れてカレーに放り込む土筆 東京都 土井隆史

★いつの日も不安の中や桜さく 岡山市 上塚 香

★逝きしより兄の桜とおもひけり 神戸市 藤生不二男

★コンタクトすれば遠のく春うれひ 東京都 本多明子

★葉桜やわずか五日の入院で 大阪市 島田時枝

(小澤實選)

★春雷やラジオがジャリと音たてり 三田市 依藤あかね 

★柏餅食べて柏葉折りたたむ 川口市 高橋まさお

★新緑を舌でねじ切るキリンかな 倉敷市 中路修平

★海恋しと桶で蛤泣きし夜 日立市 菊池二三夫 

★屋上にゴーカート馳せ昭和の日 高砂市 宮田悦子

★ファウルフライや夏芝につんのめる 大津市 星野 暁

(小池光選)

★十年の在露時代に交はしたる妻との手紙 三百通を焼く 横浜市 大建雄志郎

【評より】妻と交わした三百通もの手紙。全部取っておいたが、決心して全部焼却することに。壮絶な終活だ。

★目を閉じてわれの話を聞いてゐる猫よお前の前世は何 鹿嶋市 加津牟根夫

★夫と子を介護のさ中に急死せし友よ、ああ忘れな草が咲いてる 西条市 山本美知子 

★ベランダの夫のサンダルそのままにひとり暮しも半年経ちぬ ふじみ野市 小林久枝 

(栗木京子選)

★朧夜に見知らぬ婦人訪ね来る子等の掘りにし筍返しに 福岡市 こよりん 

【評より】作者の所有する竹林から無断で筍を掘った子たちがいたのであろう。気付いて返 しに来た女性。

★幼な児が舞い散る桜追う姿老いの我には仏に見える 枚方市 岡本弘詩

★八十になりて書塾を閉じたりき四十年を筆塚に納む 八戸市 鈴木洋子 

(俵万智選)

★とおいとおいむかしにわたしのMは逝きother's dayになりし母の日 町田市 永井悦子   

 【評】MotherからMがなくなるとother(他人)。せつない内容だが、機智も光る。結句に向 かって謎が明かされてゆく語順が効果的だ。 

★葉桜となっても一緒に見ていたいむしろここから夏が始まる 大和郡山市 大津穂波

(黒瀬珂瀾選)

★発掘を終えた地面は均されてもののふの世は再び過去へ 鎌倉市 荒井美知子

★今日散ると決めたんですと言うように万代橋に桜がふぶく 船橋市 山崎三千子

★いつまでもそばに、で切れた末期の言葉そばにいてねかそばにいるよか 大阪市 梅田憲子

★花びらに優しさもらい葉桜に元気をもらう桜はすごい 枚方市 林 孝夫 

★四歳で父を亡くした孫はいま医療の道へと一歩踏み出す 幸手市 浜田順子