5/18西日本新聞「ながさき読者文芸」。

◎俳句 籏先四十三選

★おのずから膨らむ大地弥生尽 佐世保 小山雅義 

★草笛や父のやうにはまだ吹けず 島原 坂本優美子

★黄砂降る倭寇首領の居宅跡 平戸 田地 花

 【評】東アジアの海を席巻した倭寇の頭目王直(おうちょく)、松浦隆信の庇護を受け、平戸などを拠点として活躍した。

 ※王直屋敷跡は、平戸市鏡川町にある。王直屋敷跡は後に領主の隠宅として用いられるようになり印山寺と呼ばれた。

★閉校の島の母校や亀の鳴く 西海 楠本シヲリ

★垢ぬけぬ新米教師風光る 佐世保 牛飼水鳥

★蓬摘む灯台守の妻となり 西海 高田正世

★しじみ汁民宿仕切る漁師妻 島原 野田耕起

★耳遠き長寿家系や春炬燵 佐世保 松崎伸苑

★荷風忌の「澤東綺譚」隅田川 佐世保 森 誠

 ※永井荷風の忌日は4/30(1959年)。

★葉桜や兵士回顧の口開く 佐世保 川原田安子

★筍の鍬傷深きまま煮ゆる 諫早 碇 タキエ

★揚雲雀声を嗄らして降りて来る 大村 兵庫省三郎

★補助輪の取れし園児に夏来たる 佐世保 太田恵子

★耶蘇島へそぼ降る雨や沈丁花 諫早 安浪加余子

★鎌首をもたげて不気味蝮蛇草 佐世保 松永愛子

★茶畑の裾に連なる海の色 佐世保 相川正敏

★神官の浄衣新調夏近し 南島原 末吉貴浩

★海峡の波音を聞き更衣 対馬 神宮斉之

★古民家の土間の広さよ燕の子 壱岐 甲原裕子


◎歌壇 安田博行選

★振り向けば五階の窓から三番目夕日に映える友の病室 諫早 花岡壽子 

★関所越え秘窯の里の石臼は時を刻みし杵の音する 松浦 舩原清洋 

★内海の波おだやかな島影に繕ひ終へし網を張りをり 壱岐 町田典子

★ガザ地区の少年が立つ焼け跡はわれが幼ない頃日本にも 佐世保 林田 勝 

★戦いで死にし父より五十年生かさるる吾平和を祈る 佐世保 松崎伸苑

★山猫の棲む島上空鶴帰る三十年の夫婦終へた日 対馬 神宮斉之

★下宿にて「赤いハンカチ」歌いたる友も余生を元気でいるか 諫早 麻生勝行

★初節句大きくなれと願ってのミニ鯉泳ぐ団地のベランダ 佐々 内野晴美


◎諧句 松下冨士子選

★百年を生きる翁の笑い皺 対馬 神宮斉之

★一面の蓮華畑を飛ぶ燕 南島原 板山良継

★誕生日孫からバラのプレゼント 諫早 前田良子

★断捨離と勿体ないが鬩(せめ)ぎ合う 諫早 八田幸世

★鯉のぼり大口あけて跳ね上がる 島原 山口 洋

★生き生きとしよう一番若い今日 佐々 法本安子

★今も尚庭に山吹亡父偲ぶ 大村 串崎洋一

★口笛でメジロと対話散歩道 長崎 堤 博俊

★今年また迷わず家に燕来る 長崎 小浜 隆

★つつがなく生きて感謝の長寿国 長崎 荒井孝憲

★吸って吐き初夏の息吹きを身に纏う 松浦 皆川源太郎

★粛粛と命のかけら運ぶ蟻 佐世保 松永愛子