篠崎央子(磁石)
★水草生ふらし雨粒は輪とならず
★真つ先に雨当たりたる鳥の恋
★野蒜掘る太さ揃はぬ雨が降る
★木の芽雨スーツケースは海の色
★雨よりも先に進みぬ春の鴨
★先達の足あと濡るる花の宿
★雨ひと夜春蚕の腰の透き通る
「初心者の頃から自分の詠みたいことだけを詠んできた。句集出版や結社の終刊を経て、「何が詠みたいですか ?」と問われると、「鍵和田釉子師が目指したもの」と答えてしまう。好きなように生きてきたが、実はいつも憧れの女性を目指していたのだ。師の死とともに芽生えた俳句への使命感。それは、新しい自分への挑戦でもある。」(篠崎央子)
昭和50年、茨城県生まれ。鍵和田釉子に師事。「磁石」同人。令和3年第44回俳人協会新 人賞受賞。第9回星野立子新人賞受賞。句集『火の貌』共著『超新撰22』。
安田のぶ子(「同人」主宰)
★鎌倉の余寒や光る三鱗
※鎌倉幕府執権北条氏が用いた家紋。
★大鉢三つ浸して池の水温む
★如月や寄進瓦に書く一字
★春の野にキックバイクの集合す
★野遊びの菓子の余つてしまひけり
★草餅に祝はれてゐる誕生日
「「同人」は「車百合」「カラタチ」を前身として、大正9年大阪で青木月斗により創刊された俳誌です。「車百合」発刊の折には子規から〈俳諧の西の奉行や月の秋〉の祝句を贈られています。"句は人なり”をモットーとする百年の歴史の「同人」を令和4年9月より引き継ぐことになりました。全国誌であることを強みに、各地で集まりの輪を広げ、月斗の遺志を継ぐ結社を目ざします。」(安田のぶ子)
倉田明彦(梟)
★階段の縁に白線冴返る
★春めくや在来線でかしは飯
★13階西日の中の内裏雛
★春一日ニッカーボッカー屋根を葺く
★子の影に巻毛の影も春半ば
★うりずんや巨きな船に太い笛
★春灯を映して海の柔らかき
「昨年末に句集『卵(らん)」を出した。『青羊歯」に続く第二句集である。句集名の「卵」は生命科学の扱う「らん」に拠る。たとえ貧しい未来だとしても、これから私にもたらされる新しい句の礎にしたいという思いを込めた。そして早速、この欄で句集以後の成果が問われることになったのだが、未熟なのは致し方がない。何せ孵ったばかりなのだから。」(倉田明彦)