5/14毎日俳壇・歌壇。

(井上康明選)

★囀や良弁杉は孤高なる 尼崎市 森下久美子

 <評>良弁杉は東大寺の二月堂にそびえ、高僧良弁が母と出会ったとされる大樹。春のさえずりに囲まれ、伝説を負ってすっくと立つ。

★走り根に苔の明るき春社(しゅんしゃ)かな 奈良市 伊東 勝

 <評>春社は、彼岸のうぶすなの神社の祭礼を思った。走り根のコケに日が差す、ひなびた祭を描く。

★揚雲雀天へその身を投げ入るる 西尾市 金子恵美

★蛇衣を脱ぎて紛るる草の色 野田市 塩野谷慎吾

★読み返す父の日記や青葉木菟 相模原市 はやし 央

(片山由美子選)

★春夕焼妻を急かさず登る坂 我孫子市 新井貴雄

★花冷や使はぬ部屋の大机 大阪市 隠樹ノリエ 

★二人静ふたりの姉も老いにけり 嘉麻市 堺 成美

★角落ちし鹿集まりて眠りゐる 和歌山市 桑島啓司

★若葉風天守閣なき明石城 神戸市 大田雅一

★青葉潮ハワイへ向かふ練習船 倉敷市 中路修平

★行く春や窓いつぱいに六甲山 伊丹市 奥本 朗

(小川軽舟選)

★まつすぐに朝が来るなりチューリップ 福岡市 星加雄二

★オリーブの花咲く島の樹木葬 高松市 島田章平

★山あいに若き移住者春の月 盛岡市 舟山治男

★滑り台泰山木の花近し 伊万里市 田中秋子

★三畳間本にうづめて卒業す 東京 漆川 タ

(西村和子選)

★喪の車列桜を抜けて加速せり 尾道市 山口恭子

 <評より>桜の花の下をゆく時はしずしずと進んだことを想像させる。

★飾るより手間暇かけて雛納め 唐津市 河児紀子

★母ふたり看取りし後の桜かな 秦野市 林 ち島

(水原紫苑選)

★いつまでもヒエログリフを見ていたい    ライオン、 コブラ、フクロウがいる 倉敷市 中路修平

    ヒエログリフとは、古代エジプトの象形文字のこと。神殿や墓、建物、石碑、彫像などに記されている。 

★六月の雨降りやまざればひめゆりの「解散」後の心を思えり 東京 野上 卓 

★光線に力を貰ふごとくして部屋のほこりは飛び回りをり さいたま市 長谷川文彦

(伊藤一彦選)

★歯ぎしりの強さに前歯欠けにけり大国のエゴよなれの所為なる 城陽市 近藤好廣 

    <評より>過去の戦争にも詳しい90歳近くの作者で、大国のエゴに我慢がならないと歌う。

★花びらの一枚ずつに雨粒をふくみ頭を垂れる小手毬 春日井市 月夜の雨

★お下がりを嫌がる僕のため兄がきつくなっても着てくれた服 京都市 寺西和史

★飽きるほど近づきすぎぬバランスが上手と思うそんな友だち 堺市 一條智美

(米川千嘉子選)

★小さくて丸きかたちのやさしさよ    赤子に蕾・街中の点字 伊丹市 岡本信子

★花紙で作りし窓の桜の木はがしてディの五月始まる 堺市 梶田有紀子

★粥を炊くわれの背中を眺めつつ残りの日々を送りし夫よ 千葉市 中村キヨ子 

★注ぎくるるビールの泡の盛り上がりは君の思ひの解かれし証し 城陽市 近藤好廣

★いのち産む任務を果たし空っぽのロケットになった身体楽しむ 水戸市 水 鳥 

★触れちゃえば終わりに近づく感じがして距離感 だけを味わっている 名古屋市 杉 大輔

★ランドセルは未だ馴染まず駆ける時一年生の背で上下す 八千代市 一戸光代

(加藤治郎選)

★人、桜、人、人、桜をくぐり抜け薄いニットの腕を掴んだ 横浜市 友常甘酢