◎「グループ作品」「歌・句誌」より
(翼の会)
★清明や疎水に太る鯉の群 阿部順子
※「清明」=二十四気の一つ。春分から15日目、陽暦4月5 日頃ごろ。万物に清新の気がみなぎる時節。
★春星や黄泉への旅の標なる 福山和枝
★母介護の時間小間切れ蝶の昼 田川美根子
★行く春や見渡す畑の生家跡 宮内百花
★冬の朝桜が二輪咲いている 宮内ゆき
★桜狩り浮き世の外の昼の月 浦田結花
(土曜俳句会)
★みどり真夜地球の何処かにある深手 中尾よしこ
(佐世保同人即吟会)
★逢ふことを生きる望みに緑立つ 髙永久子
★逢ひたきは紫式部藤垂るる 奥村ちか
★久に逢ふ変はらぬ人よ花菖蒲 芝崎せい子
★新茶上げとぎれとぎれの般若経 崎元美喜子
★手慣れたる新茶揉む手の太き節 坂本幸代
★逢ふといふ約束はるか夏薊 鴨川富子
(深堀橡俳句会)
★山裾のトンネル工事竹の秋 喜多栄子
★窓際のミシン軽快遠桜 桑崎時子
★春コート着てそこまでの久の試歩 佐藤とき子
★木の芽流し文一つ抱きポストまで 中村喜代子
(杏長崎青桐句会)
★雀の鉄砲かこむ防空本部跡 朝長美智子
※「雀の鉄砲」=スズメノテッポウ。春の水田によく見られ細くて真っすぐな穂を一面に出すのでよく目立つ。
(杏長崎3月号)
★防寒着寝て見る双子座流星群 横瀬恭二
★初景色地球の丸く見ゆる岬 松本テツ子
(We第1号)
★無限の野望有限の芒原 江良 修
(氷室3月号)
★家業継ぐ紺の前掛霧の朝 川上和昭
★つくばひに鳥の羽あり初氷 田崎セイ子
(万象3月号)
★蓑虫の引つ張り返す力かな 丸本祥夫
★寒晴やぎざぎざ尖る海の果 山下敦子
◎「短歌(うた)ありて」
★「じいちゃんも竜宮城に行ったのか」行ったと言えばやっと寝ついた 樋口 勉
〜死というものが幼い子にはまだわからない。優しくていつも遊んでくれたじいちゃんが、ある日いなくなった。そのことに戸惑いや寂しさや不安を感じ、小さな胸ははりさけそうだったろう。そんな時、じいちゃんが聞かせてくれた昔話を思い出す。「海の中の竜宮城はな、おいしいものがたくさんあって、歌ったり踊ったりとても楽しい所でな、じいちゃんはもうすぐそこに行くんだよ」と。だから添い寝をしてくれた父親に思い切って聞いたのだ。そしてその答えに安心して眠ったのだろう。しんと静かに胸が熱くなる一首だ。第29回宮柊二記念館短歌大会入選作。(コスモス・岩丸幸子)
★片恋の味のやうなる夏柑のマーマレードのほろ苦き味 久田恒子
〜新緑に薫風が渡る頃は夏ミカンの季節となる。佐世保の初夏の風物詩、早岐茶市でも、たくさんの出店に並んで陽光に輝いている。家庭では多くが生食されるが、一手間かけてマーマレードにもされる。作者は、甘酸っぱさと共に舌に残るマーマレードのほろ苦さを片恋の味と捉えたのだ。みずみずしく、若い精神と感性の発露が伝わり、万葉集以来の秘めやかな「片恋」が情趣を加えている。掲歌は母と娘(岩間郁子氏)の歌集「母子草」によるが、上梓されたのは作者が91歳の時で、今年は98歳になる。長く後進の育成に当たり、現在も詩情豊かな歌を作り続けている。(心の花・西野國陽)