朝日新聞地域版俳句欄4/4分と5/9分。
朝日新聞地域版の俳句欄を、俳句の大先輩、荒巻洋子さんからラインで送っていただきました。選者はいずれも田中俊廣さん。
【評】1637年から翌年にかけて、岬の城に立て籠もった切支丹・農民を幕府軍は根絶した。その惨劇による死者は、一説に37,000人とも。群れ咲く瑠璃色の数々に霊魂を想起。花の青は冥福への祈りである。
★春潮に乗りて新任教師かな(島原市)宮崎和夫
★笑ふ子の前歯不揃ひチューリップ (佐世保市)柴田洋太
★霾や大師帰朝の島港(長崎市)藤中正治
★春耕や伏し目に御座す野の仏(大村市)森 径子
★菜の花や老い知らぬまま夫逝きぬ(長崎市)藤村恵美子
★うららかや「風天」渥美清の句(諫早市)麻生勝行
★春風や鴨の水脈切る鯉の口(佐世保市)渡久地弘子
★啓蟄や鷺従へて耕耘機(佐世保市)小山雅義
★保育士のぎゆつと抱きしむ卒園児(西海市)田川育枝
★泥濘(ぬかるみ)も恵みの雨と祈年祭(壱岐市)長岡登志江
★分校の走路のほかは春の草(長崎市)佐々木光博
★廃校へたつた一人の卒業歌(波佐見町)川辺酸模
★対馬に生き老老介護山笑ふ(対馬市)古藤 定
★母の忌や母の好みし嫁菜飯(大村市)平松文明
★偕老同穴歳月重ね桜餅(佐世保市)光武正義
★実家解く話途切るる蓬餅(佐世保市)相川正敏
★殉教徒舟出の浦や遠霞(諫早市)東内美智子
★唐ゆきの慰霊碑濡らす春の雨(諫早市)中野久夫
★禁教を貫く墓標花の山(長崎市)根本慶明
★原城の石積み崩れ花菫(諫早市)西宮三枝子
★定めなき仮のいのちや雛の夜(大村市)高塚酔星
★来る年もまたと雛の笑み給ふ(長崎市)井上映子
★雛納めまた一年の別れ告ぐ(長崎市)樋口芳子
★被災地の瓦礫荒野に春立ちぬ(長崎市)吉浦啓介
★鎮魂の祈り新たに能登の春(長崎市)芦塚和子
★雛飾震災能登の店の隅(長崎市)古賀野成子
★亡き人に子等の献ぐる八重桜(南島原市)三宅康夫
【選者吟】ひとひらの花盃へ西行忌
◎5月9日分
【評より】豆の花のひそやかな情趣と、毎日を何事もなく生きる平穏の有難さとが互いに呼応する。
★桜蘂降るや遺骨はふる里へ(壱岐市)長岡登志江
【評より】開花への期待。爛漫の華麗。散る哀惜。桜は、様々な様態が美や感動を与えてくれる。加えて萼に残った赤い蘂が降るのも感慨深い。生命は燃え尽き、永遠の安眠の時空へ帰郷する。
★われ百寿こえて今年も桜餅(南島原市)楠田郡治
【評より】葉書に百三歲十一か月と。
★ひとひらもこぼさぬ力白牡丹(佐世保市)荒巻洋子
★校長の終の卒業式辞かな(島原市)宮崎和夫
★フリージア胸一杯に退職す(佐世保市)相川正敏
★いつまでも売れぬ中古車春の塵(西海市)前田一草
★遠足や手引き声かけ新教師(長崎市)西村智子
★桜蘂染むる被爆の石畳(長崎市)中島則子
★霾や漁網かつぎて父と子と(大村市)森 径子
★葉桜の郷に最後のクラス会(平戸市)安富タヅ子
★ガザ惨事詠むしかできず桜散る(西海市)山下敦子
★春や子の華燭の典の泣き笑ひ(長崎市)本田忠昭
★雉子啼いて隠し道ある耶蘇の谷(長崎市)藤中正治
★忘れる事お互いさまと春落葉(長崎市)山崎京子
★とりどりの喜び唄へチューリップ(波佐見町)川辺酸模
★来る来ないマーガレットに問ひにけり(西海市)田川育枝
★飛花落花うす墨色に遊と書く(諫早市)篠崎秀子
★黄帽子の二列縦隊風かをる(長崎市)樋口芳子
★湯の宿のおかみの作務衣沈丁花(西海市)笹山恒子
★麗かやイソヒヨドリの澄める声(大村市)平松文明
★分校より教師帰るや筍と(島原市)馬場富治
★カステラの甘き香りや春闌ける(長崎市)佐々木光博
★長々と航跡白く風光る(佐世保市)鉄川悦子
★揺り椅子ヘショパンの音色風光る(島原市)山崎国佐
★卒寿なるも功無き人生春惜しむ(佐世保市)臼井 寛
★花冷や紅茶に垂らすブランデー(島原市)川内澄江
★伸びやかに少年の声竹の秋(佐世保市)光武正義
★老人の迷子放送桜散る(佐世保市)小山雅義
★猛る野火昼満月を焼きこがす(諫早市)中野久夫
★草餅やグランドゴルフの四千歩(長崎市)前川幸司
★春暁や川瀬に跳ぬる太き鯉(波佐見町)川崎三郎