今日は、句集「良き世」の後半、宮本由美子さんの俳句「それから」を見ていきたいと思います。
2 冬銀河夫の覚悟の止められず
3 寒空の一ト日欠かさず夫見舞ふ
4 罪無くて死にゆく夫や千代の春
5 夕顔や夫の最期の病院灯
6 透析の生死彷徨ひ寒椿
8 一月に生れたる夫の逝く一月
9 一月の柩も亡夫(つま)も白一色
「それから」の冒頭には、巧さんの最晩年の頃の様子を詠んだ句がありました。ほぼ巧さんの死を覚悟した由美子さんの切々たる思いが窺えます。
巧さんの死後しばらくは、由美子さんは何にも手につかない日々が続いたのではないでしょうか。それでも徐々に、巧さんとの思い出やそれ以後の自分の様々な思いを俳句にすることによって立ち直って行かれたのでしょう。正しく俳句は生きて行く上での大きな杖ともなるという真実。
でもやはり、しばらくは何見ても何しても何につけても、亡き巧さんを思い出してしまう。
16 父の日や今胸に手をありがたう
17 緑さす茶会の席に夫の亡く
27 透析の夫の絶筆原爆忌
※「夫の絶筆」は巧さんの句「透析の片手で拝む原爆忌」と思われます。
32 夫恋へば瞼膨るる盂蘭盆会
39 面影の秋服今も吊りしまま
42 夫逝きて独り茶漬けの秋の暮
44 肩落し歩みし亡夫や石蕗の花
45 亡き夫の古着は捨てず冬支度
53 夫逝きて我が身一人のクリスマス
巧さんが亡くなって丸4年。実は由美子さん、巧さんの一周忌を過ぎた頃、巧さんの仏前に何か大きな供養になるものを供えたいと思い立たれた。それは自分の、巧さんを偲ぶ思いを託した俳句を供えることだった。それがようやく実現の運びとなったのです。
その他いくつか句集から抄出致します。
7 誕生花亡夫(ぼうふ)も吾も福寿草
13 花明り釈迦に微笑む亡夫の夢
15 風光る亡夫(つま)乗せ還れ鸛(こうのとり)
20 男梅雨避難に夫の遺影抱き
31 一冊の句集の供養初の盆
40 男郎花ふたりで生きると誓ひし日
41 ふたりして花野へ行かうと亡夫言ひし
43 露の夜や亡夫に詫びたきことあまた
47 亡夫あらば炬燵出す日の話かな
52 亡夫連れて冬日の中の散歩かな
55 初句会夫の遺影に声かけて
※次ページに記録の為に全句を載せておきます。