5/3山梨新報「しんぽう文芸」。山梨の句友、田辺義樹さん報。

◎歌壇 祢津達子選

★受粉してと云わんばかりに咲き満つる李(すもも)の蕊に毛バタキそっと 南アルプス 長澤輝子

 【評より】果樹栽培の豊富な経験者だろう。下の句「李の蕊に毛バタキそっと」、李の花への細やかな心遣い、果樹園の情景も感じられる。

★ごつごつの短い指で布裁つも生き生き動く針持つ指は 甲府 丸山洋子

★絵画展二つ控えて今日も又夫せかせかキャンバスの前 埼玉 所 富子

★崩しいる古き民家の古柱なぜか愛しく香りいるよな 富士河口湖 堀内智美

★川岸の万朶の桜折々の風に川面に花びらこぼす 中央 前田良一

★週一を週二に増やす休肝日褒めくれる妻眉に唾つけ 甲斐 松田健嗣

★「男なんだからシャンとしな」の母親に「セクハラだよ」と小六年生 甲府 高瀬孝人

★片膝を立てて鎌研ぐ祖父の背に近寄り難き戦後の昭和 富士吉田 樹俊平

★道によくたとえられてる人生をそっと振りかえる我が足跡を 富士吉田 田辺義樹

★心ならずも今年の花見車椅子目に焼き付ける満開桜 神奈川 望月真佐夫

★スーツ着て髪型決めし我が息子最寄りの駅へ颯爽とゆく 甲州 水上優子


◎俳壇 山田省吾選

★満開の桜に埋もる弘前城 笛吹 石倉絹子

 【評より】弘前は津軽氏十万石の城下町。リンゴ・米などの集散地。ねぶた祭・津軽塗・桜の名所としても有名。沢山の桜が咲き競って城を覆い隠すほど。

★俎板のうろこいっぱい櫻鯛 甲府 加勢昭子

★風まかせ寄っては離る花筏 笛吹 石倉正明

★立つ風に揺るる樹海の富士桜 大月 小俣義人

★飛花落花御目伏せ目の阿弥陀仏 大月 志村忠義

★蒼穹に富士の純白春の朝 富士河口湖 渡邊康久

★本殿の長き回廊百千鳥 甲府 村松幸治

★七重八重開き尽せし椿かな 市川三郷 片田佐恵子

★雨の中吾を見詰める春の鹿 市川三郷 一瀬利彦

★国分寺往古の土に董咲く 笛吹 石原正則

「あはれ」の語彙問ひて孫詠む桜の句 甲斐 松田健嗣

★朝よりの雨を含みし八重櫻 甲斐 馬場鉄丸


◎柳壇 坂田よし江選

★真剣にイソップ童話読んでいる 富士吉田 田辺義樹

★二年過ぎ出口見えないウクライナ 富士川 依田正男

★椅子起ったその訳フッと又忘れ 甲斐 松田健嗣

★右に杖左孫の手花日和 埼玉 伊藤一男

★テレビとの会話で弾むひとり部屋 甲府 藤巻 茂

★髷なしの二人が土俵盛り上げる笛吹 岩井 衛