5/6西日本新聞「西日本読者文芸」

◎俳句 秋尾敏選

★軍服の父軍馬にも桜見す 神埼 佐藤友則

★風呂敷の大の字になる万愚節 須恵 水間道愉

 【評より】背景に「大風呂敷」という言葉がある。

★どう見てもうしろ姿の山笑ふ 佐世保 牛飼瑞栄

 【評】背中から春になっていくように見える山。上五が軽いが、それも含めての滑稽句である。

★卵とじと決めて土筆を摘みに行く 久留米 田中敏子

★襟あしにしゃぼん冷たし初ざくら 久留米 森永一正 

★花菜風ギターケースヘコイン投ぐ 宗像 伊熊悦子

★花束のやうにも見えて春キャベツ 熊本西 恒松繁政

★春の星職退く夫を駅に待つ 糸島 上野純子

★春の昼介護施設に音の無く 朝倉 林 正子

★耕して素の人間に戻りたる 宗像 川口茂則

★成長は風にまかせて葱坊主 飯塚 野見山洋子

★よくしなる長き手と足青き踏む 福岡東 馬場崎智美

★あんぱんのへそにはんなり桜漬 日田 梅木眞知子

★三日目は小雨にけぶり遠ざくら 福岡南 宗 康子

★一仕事終えて立夏の絵馬となる 筑紫野 古賀靖敏


◎俳句 星野椿選

★木の芽和え夕餉に届く間柄 福津 藤吉靖信

★職を退く上司を惜しみ花の宴 小倉南 上月ひろし

★汐入の小舟の揺るる日永かな 宗像 伊熊朋則

★流鏑馬の当り矢桜散らしけり 太宰府 入江眞己子

★春月や幼帝果てし壇ノ浦 福岡南 下澤成子

★惜春や絵の教室の閉じらるる 久留米 田中敏子

★春雨や老妓爪弾く博多節 福岡中 西村英俊 

★露天商木樋にどかと初蕨 福岡中 内田正義 

★参道を真一文字に初燕 大野城 荒木信夫 

★探し物ひよいと出てくる春の雷 福岡東 木本美也子


◎短歌 伊藤一彦選

★くずだった中原中也もくずだった吾もくずかと春に問いたき うきは 生野 薫 

 ※【評より】学校を落第し、その後も家族に心配をかけた中原中也。秀でた詩人だった。思い切って「くずだった」と敢えて言いつつ、自分の詩思を確かめ高めようとする切実の心が伝わる。

★ソーラーの海と化したる炭住の跡に残れる子らのさざめき 大牟田 柿川京子

★「がまんする」、おやつの3時を目指す君これが成長拍手を贈る 行橋 小林智子 

★食を求めて群がる人らその中の一人に我を置きかえてみる 久留米 仙波惠子

★ダメという事ことごとくやってのけ笑顔で帳消しにする三歳児 行橋 木村葉子


◎短歌 栗木京子選

★愛犬が生きてゐたころこの桜につないだよねと幹をさすりぬ 大野城 染川ゆり②

★綴られし子らの感想届きたり我が失明の苦楽を聴きて 朝倉 吉澤孝夫 

★また父を叱ってしまう私ごと全部消したい四月の空に うきは 生野 薫②

★石鹸のくぼみでさへもいとほしい母さんの手に包まれるから 長与 下田玉緒 

★初めての夜桜会に歓声を上ぐる夜間の洋裁生ら 平戸 豊里ちゑ子 

★冬服をやっと脱がされ散歩するトイプードルの歩み軽やか 大野城 荒木洋子

★働いた蜂は何匹いたのかなはちみつなめてふと思う時 朝倉 小宮道子 

★紫に熟れしイヌビワふふみつつ物の乏しき戦後を思う 福岡東 江森節子


◎詩 平田俊子選

「大股で歩く」福岡西 船橋留美子


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