5/6毎日俳壇・歌壇。
(西村和子選)
★清明や雨あがりたる山の色 長浜市 中島正則
<評>二十四節気のひとつ「清明」は暑からず寒からず最も快適な季節。雨上がりの清らかな山を目のあたりにした実感。
★この先は海風強き遍路道 浜松市 久野茂樹
★囀りに目覚めて今日も生きている 清瀬市 橋本武志
★黒板に落書きの無き四月かな 山口市 中野元太郎
(井上康明選)
★茶畑の光の海を摘みにけり 富士市 後藤秋邑
★空を掃くほどに竹揺れ兼好忌 周南市 九内千沙
<評より>兼好法師の忌日は旧暦2月15日とされるが不定。
★種蒔くや父の遺品の農日記 藤枝市 山村昌宏
★人口の減りゆく国の葱坊主 豊田市 松本 文
★夏近し辿り着きたる三千句 姫路市 田辺富士雄
★春泥や吾が来し方の深轍 東京 福島照子
★わだかまりとけゆく文や春の雪 加古川市 伏見昌子
★遠き世の調べか鶴の鳴く声は 唐津市 梶山 守
★み仏の手に薬壺夕おぼろ 福岡市 小出達夫
(片山由美子選)
★帯解きて膝に抱きし花疲れ 東京 福島照子
★手術日を待ちて眺むる桜かな 長崎市 鶴田鴻己
★スイートピー活けて亡き子の誕生日 和歌山市 武友朋子
(小川軽舟選)
★海面を割つて吸ふ息磯なげき 葛城市 山本 啓
<評>磯なげきは海面に浮き出た海女の息の音。口笛のように響くという。「割つて吸ふ」に空気を求める切実さがある。
★噂や朝の厨の皿の音 東京 土方けんじ
(水原紫苑選)
★楽譜から逃げた音符が桜蕊土と光を奏でたいから 東京 無地ムジカ
★覚悟と諦念の近さよ ネモフィラの揺れてやまない生前にいて 花巻市 永汐れい
(伊藤一彦選)
★人が作り人が放った無人機が人の眠れる町を掠める フランス 小仲翠太②
★真夜中にソドムの林檎を喰うようなみそラーメンは死ぬほど美味い ふじみ野市 雨雨雨汰
★恍惚の人の虚ろな応答にありがとうねがふんわり混じる 大阪市 タカエレイコ
★御礼状なんだか硬く書きすぎて余白に添えた手書きの苺 戸田市 水沢わさび
★暖かき胸も知らずに赤子らは死さえも知らず爆音のなか 一関市 相川元美
(米川千嘉子選)
★官僚で留学もせし憶良なれど歌は寄り添ふ貧しき人に 幸手市 中村早苗
★ブラジャーは破れた位じゃ捨てません壊れる位着てから捨てます 広島市 堀 眞希
★何者も生み出せぬこの身体でも朽ちてゆくまで〈わたし〉の乗り物 名古屋市 外山 雪
★抽斗の中に社章は残りをり十年前に会社は消えたが 横浜市 大建雄志郎
★うれしいなトイレそうじの仕事来て役所広司に負けずにヒゲを 上越市 戸枝 誠