5/6読売俳壇・歌壇。
(矢島渚男選)
★咲き休み散り休みつつ花は葉に 羽村市 竹田元子
【評】古典的な味わいがある。万葉よりもゆったりと新古今調か。花を眺める余裕もいい。花の終始を詠って見事である。動詞四つに、それぞれ小休止を置いて読む。
★鰻屋の多き参道鷹女の忌 鹿嶋市 津田正義
【評】三橋鷹女の奔放でユニークな作品は今も新しい。関東大地震に倒壊した屋根の重みに乳児を抱いて何時間も堪えた辛抱強さは鰻で育ったせい ? 成田山に生まれた人で、その参道には鰻屋が多い。
※「鷹女忌」=4/7(1972年)。72歳。
★嬉しさは古巣に来たる初燕 滋賀県 中沼克司
★春泥に検診の牛引き出す 小金井市 高橋広子
★曲り家に飼い葉の匂ひ春時雨 ひたちなか市 鈴木敏男
★病む母へミモザの咲きしことなどを 深谷市 酒井清次
★親友の桜と共に老いにけり 埼玉県 吉野利美子
★連凧の主峰従峰そびえ立つ 札幌市 村上紀夫
(高野ムツオ選)
★連翹の揺るるは楽し老いたのし 三条市 星野 愛
【評】「楽し」の繰り返しに実感が溢れる。春到来の喜びも生きる喜びも、人生の残り時間が少なくなってこそ深くなる。老いることは面白いのだ。
★風車子の息に足す母の息 神戸市 西 和代
★春疾風まだ踏んばれる力あり 久喜市 利根川輝紀
(正木ゆう子選)
★母の日の母をひとりにしてあげる 長野市 なかさとれん
【評より】母の家に皆で集まるのも、旅行に連れ出すのも親孝行。でも何時も忙しい母ならば、一人の時間もまた贅沢かも。
★夫以外みごと女系の桜餅 船橋市 中島かず代
★わが死なば花大根を投げ入れよ 福岡県 吉田雄二郎
★寄り来るはみな引き連れて花筏 東京都 望月清彦
★撫でることゆるす保護猫春しぐれ 市川市 佐藤詩子
★羊膜に濡れ子牛立つ春の月 宗像市 泉 勝明
★そのことを今は忘れて夕桜 八王子市 梅沢春雄
★花曇り姉出棺のクラクション ふじみ野市 新井竜才
(小澤實選)
★ジャンピングキャッチのサード風光る 堺市 土居健悟
★私語多き保護者席なり卒業式 甲府市 村田一広
【評より】卒業生の席も在学生の席も、緊張して静まり返っているのに、保護者席だけが私語が多い。
★鯉寄り来残りし鴨に餌撒けば 川口市 高橋まさお
★畦塗や手慣れの鍬で仕上げまで 大垣市 大井公夫
(小池光選)
★誰が好きか問えば高峰秀子だとはにかみながら父は答えぬ 東京都 影山 博
★失恋をして泣きながら弁当を食べてた三田さん 思い出す桜 佐世保市 鴨川富子
★公園に跳ぶ子走る子滑る子の声響き合ふみな春の客 岡山市 岩藤由美子
★五十年お世話になったぐいのみが部分入れ歯の入れ物となる 川口市 島村武光
★軍用飛行場ありし台地の茶畑に回る防霜ファンのプロペラ 静岡市 柴田和彦
★少しづつ川幅広げ四万十川は大人になりぬ中村の地に 瑞穂市 渡部芳郎
★満州の引き揚げ話横に置き大福食みぬ卒寿の母は さいたま市 斎藤宏遠
★難聴の妻はかなしい顔をするわれの大声怒りふくむと 東京都 大室英敏
(栗木京子選)
★見納めの桜と見つつああさうだ去年の思ひと同じと気付く 宇都宮市 田野辺郁夫
(俵万智選)
★餞別のショコラに付箋紙「好きでした」先にください現在形を 横須賀市 吉目木 令
★あたたかい雨で絵の具を溶くように花びらは通学路を埋める 四街道市 かきもちもちり
★この橋を渡れば選んだ夜になる 渡らなければ飲み込まれる夜 川越市 かしくらゆう
(黒瀬珂瀾選)
★花毎に娘の写真撮る母のゐて入園式の帰りなるらし 船橋市 米山正久
★集団に守られてゆく一年生とても小さな社会を歩く 美濃加茂市 近藤祐司
★狭いほど居心地がいいグッピーは冬でもぬるい水で暮らして 柏市 遠野 鈴
【評】自由が無く、縛られている方が何も考えずに済むから楽だという、現代の生を批判した歌でしょう。ぬるま湯に生きる私たち。
★米づくりこれが最後と言ひつづけ今年も過去のメモ帳めくる 岩国市 村本瑳智香
★歓迎会の料金一部を差し引いて能登の復興募金に回す 松本市 須貝大二
★毛糸編む母の猫背の弧が変わる冬には冬の春には春の 東京都 風ノ桂馬