5/6長崎新聞郷土文芸(1)俳壇・歌壇・柳壇。

◎俳壇 前川弘明選

★春雷や史記に非情の王のあり 東彼杵 沖永愼吾 

 (評注)「史記」は紀元前に完成した中国の正史で、王や武将たちによる華麗なる国内の興亡を記す。

★舌を出すアインシュタイン春暑し 長崎 入口弘德

  (評より)この頃の春の変な暑さに、あの写真を思い出したのだ。

★花桐や歩み去る母かぐはしき 長崎 塩田ひさを

 (評)キリは高貴な感じの紫色の花をたくさん付ける。その花に背を向けて去る母は香るような。 

★花冷や微光を放つ注射針 西海 楠本シヲリ

★春深し海女小屋にある聖書かな 佐世保 森 誠

★行く春や書斎に父の金時計 雲仙 尾崎春美

★鉄棒に下がる子の影夕桜 佐世保 相川正敏

★赤錆の破れ梵鐘や花の雨 長与 三河祥子

★古家の解かれし跡や初燕 長崎 立木由比浪

★隠し味の嘘ひとつまみ花の宴 長崎 三宅三智夫

★明易し夢の二幕に鳥の声 佐世保 萩山義人

★木洩れ日や沢蟹と吾子たわむれて 長崎 田中よし子

★若布刈る浮灯台の点るまで 長崎 島崎日曻

★サクサクと白菜切りて落ち着きぬ 佐世保 川口栄子 

★花散りて磯の香匂ふ海辺町 長崎 桑原和好

【選者吟】駈ける笑う転がる子らよ花吹雪


◎歌壇 寺井順一選

★被爆せる母娘に水をやるために再び戻る白昼の夢 西海 原田 覺

 (評より)原爆の記憶は夢にまで現れるのだろう。水を求める肉親の悲痛な声が聞こえる…。

★「ありがとう」花見の人ら掃除婦の我に声かけ帰りてゆけり 松浦 長谷智香江

★一隅に新聞雑誌の積まれおり数年前まで亡夫の定位置 長崎 渡辺英子 

★目標のねんりんピック近づきて友のクロール常より速し 大村 福谷健吉

★パソコンで疲れたる眼を庭にむけ花海棠の色に癒さる 佐世保 小山雅義

★今日もまた穏やかな時をありがとう抗がん剤に挨拶ひとつ 南島原 末吉貴浩

★出揃った麦穂の直立姿よく背筋ピピッと老いを忘れる 雲仙 中村澄子

★「こけるなよ」面会終えて帰る吾に声かけくるる入院の夫 五島 都々木邦子

★クレーン来て山畑に立てた武者幟 見上げる空は青く輝く 諫早 井手美恵子 

★始めがあれば終りがあると言いし人春陽の沈む刻に逝きたり 松浦 松永 進

★思い切り断捨離するも日の経てばまだ使えると袋を開く 雲仙 酒井良美

★新しい緑に変わる樹々が揺れもうすぐ五月私の月だ 佐世保 山崎ひとみ

★たまさかの施設訪問の歌声に昔をしのび涙する人 大村 辻 利雄 


◎柳壇 井上万歩選 題「普通」

★五体満足普通に生まれ安堵する 南島原 松永千恵子

★肥えもせず普通サイズの安上がり 佐世保 鶴田竹一

★平凡な普通の日々がこれ平和 長崎 柏木茂紀

★何事も普通な事の難しさ 大村 平松文明

★非常時に染みる普通の有難さ 長崎 臼井良子

★普通の暮し根こそぎにする大地震 諫早 鳥巣律子

★欲出さず普通に生きる難しさ 長崎 穐山佳代子

★歩行器はなくて普通に歩きたい 大村 岩本ウメノ

★普通に日々送れる国に住める幸 大村 福谷健吉

★人並みに生きて感謝の衣食住 諫早 小田庄之助


◎「あわい」(今回はこの記事のみでした)

▼「俳句」(角川文化振興財団発行)に前川弘明さん俳句8句寄稿。
「百千鳥」
★くさめして朝の太陽紅うする
★初蝶が考えている石の上
★桜散って浮くナガサキの水溜り


※以下は、ページをあらためます。
◎「グループ作品」「歌・句誌」より。(俳句を主に)
◎「短歌(うた)ありて」
◎一面「きょうの一句」
 ※「きょうの一句」は、またページをあらためて一週間分をまとめて投稿致します。