俳句ポスト365、兼題「囀」(中級者以上)木曜日【秀作(10句)】


★囀を二グラムまぜて描く大樹 古賀

 〜(夏井先生の選評全文。以下同じ)水彩画を思いました。水を含ませた淡い色合いで描き上げていく「大樹」。そこには鳥たちも集まっているのでしょう。

 「囀を二グラム」とは、絶妙な比喩。数詞は、詩と相性がよいのだなと改めて納得させられた一句です。



★鳩居堂を出てさへずりの街明るし はぐれ杤餅

 「鳩居堂」は、お香や書画を扱う老舗です。お目当ての品を買い、出てみると、「さへずり」に満ちた街の明るさに、嗚呼と声をあげたのかもしれまん。

 「鳩」の一字を含む店名であることが、ささやかな隠し味となって。


★囀に飢ゑて若木は伸ぶさうな 岡根今日HEY

 「囀に飢ゑて」という詩語を浮き上がらせてないのは、後半「若木は伸ぶ」という措辞。眩しい緑をぐんぐんと伸ばしていく映像が、詩語を支えています。

 「~さうな」と、軽く躱すかのような着地も巧いものです。


★囀りの共鳴器として千の樹々 中岡秀次

 「共鳴器」とは、特定の振動数の音だけに共鳴するようにした中空の器なのだそうです。天地の様々な音の中から「囀り」の音だけに共鳴するのは「千の樹々」。美称である「千」という数詞のなんと豊かな響きでしょうか。



★炭酸の淋しく止んでさへづりも

ぞんぬ

 「炭酸」の泡がやがて止んでいくうちに、「さへづり」も止んでいることに気づきます。「炭酸」の泡も「さへづり」も、光できているのかもしれないと、そんな思いが過ります。「淋しく」の一語によって生まれた春の愁いの詩です。


★骨上げの毛羽立つ骨片さへづれり 福花

 眼前には、ほんのりと熱を残しているかのようなお骨。太い箸で拾い上げようとすると「毛羽立つ骨片」に気づきます。生の名残であるかのような毛羽立ちに、悲しみと「さへづり」が一気に押し寄せてくる「骨上げ」の記憶です。



★囀を用いて空の輝度測れ みづちみわ

 「~用いて~測れ」とは、まるで実験を指示する文言のようですが、「囀」ならば「空の輝度」が測れそうな気にさせるのが、この詩の力です。

 きらきらと広がっていく囀りの満ちた空は、春のまぶしさに溢れています。


★まづ雨の昨日の分を囀りぬ 和緒玲子

 雨の日の囀りを描いた句も沢山寄せられましたが、「まづ雨の昨日の分」というフレーズが秀逸です。

 昨日一日雨であったことをさりげなく伝えつつ、雨上がりの朝の喜びの囀りを生き生きと表現しました。


千代田区のさへづり港区のさへづり 多喰身・デラックス

 「千代田区」は、皇居や国会議事堂などがある日本の中枢的な地区。かたや「港区」は、品川駅や浜松町駅など交通の便のよいのが特徴。

 思いの外、樹木の多い東京にて、各々の「さへづり」を聞き分けながら楽しむ、首都の春です。


点滴は遅遅さへづりは耳いつぱい 椿 佳香

 「点滴は遅遅」というありがちなフレーズから、後半「さへづりは耳いつぱい」で一気に真実味と独自性を確保。

 点滴に繋がれている時間を、きらきらと満たしている「さへづり」。これもまた鮮やかな季語の現場です。