俳句ポスト365、兼題「囀」の回、中級者以上結果発表、月曜日。【類想


◎選者・夏井先生の類想に関するコメント(要約)〉


✦季語「囀」の基本情報。

 なぜ「囀」が春の季語になっているのか。それは、鳥たちの求愛の鳴き声だから。この基本中の基本情報を確認しないまま、作句を始めている人がいる。 

 「雛の囀」や「餌を求めての囀」などは、季語「囀」とは意味が違う。ましてや女性や子供のお喋り、何かの着信音や信号の音を「囀」のようだと比喩するのは、季語としての「囀」ではない。

✦気になった点を幾つか。

 季語の送り仮名が「囀ずり」「囀ずる」になっている句があった。

 上五「囀に」とした句が相当数あった。ここは「囀や」と詠嘆すべきではないかと思われるケースがほとんど。上五の助詞「に」は散文的になりがちな使い方。確かな意図をもって「に」を選んでいるのか否か。  

 「囀」が、鳥のことなのか人のことなのか曖昧な句もあった。自句にそのような曖昧さがないかどうかを振り返って。

✦類想パターン

(囀に対する感情、イメージ)

 癒される。自分へのエールのよう。気分が晴れやか、心が澄む。光、きらきら、明るさ。時には囀が鬱陶しい、嫌だ。(囀は楽しそうなのに)自分は独り、(囀を聞きながら)。うたたね、目覚める。歩く。体操、ヨガ、太極拳など。囀に負けないくらいのお喋り。楽器を演奏する、歌う。囀を真似てみる。

(囀に気づいて)

 仕事の手をとめる。足をとめる。スマホで検索。双眼鏡で見る、写真を撮る。姿を探すが見えない。

(囀の季節は)

 恋。出会いと別れ。卒業、入学、退社、入社、転職

(囀っている様子、囀そのものの形容)

 枝から枝へ。空高く舞い上がりながら。二羽が揃って。小首をかしげる。まだ下手、拙い。楽器、音符、曲に例える。(囀が)〇〇を真似ている。囀に囀が応える。音が外れている鳥がいる。囀は音符、囀は光の礫。

(場所)

 窓の外(鳥の声で目覚める)、ガラス越し。電線。森、公園。墓、火葬場。

(その他)

 囀に猫が反応。何かの音に囀がかき消される→爆音、重機の音、雨音など。〇〇に囀が届いてほしい、届けたい→病床の人、故人など。吉報が届く→孫が産まれた、結婚の報せ、合格通知など。大樹で囀る→「囀りをこぼさじと抱く大樹かな(星野立子)」。囀に樹が膨らむよう。眼下に囀る、囀りの眼下に〇〇。右に左に囀、四方に囀、囀に囲まれる。

◎以下、類想句の一覧(抄出)。

囀に曳かれ庭まで半歩ずつ 一の橋世京

囀に雨の上がるを知りにけり 鈴木古舟

囀りに心あそばせ独り酌む 徳翁

響きあう園児の声と囀と 田中ようちゃん

囀のあしたに届く“孫生まる” コーノ凡士

囀や村に花嫁来る噂 越前俊水

囀りの天上にある散歩道 吾亦紅

囀りや目玉ふたつのハムエッグ 金子泰山

囀や君のためにと紅を引く 新山晶花

囀や今日が最後の通学路 新井ハニワ

囀やひとり腰掛け塩むすび わたり 和

さえずりや嗚呼生きてゐるこの刹那 岡井風紋

囀やベンチの二人おべんとう ののさわ麗ら

囀りに目覚めて宿の朝湯なり 月影重郎

囀や旅立ちの日の応援歌 高橋美譜

◎今回の兼題「囀」中級者以上投句欄への投句は、投句数4011句、投句人数1658人。

※次ページ、俳句ポスト火曜日。