4/22読売俳壇・歌壇。
(矢島渚男選)
★思ひ出せぬ暗証番号冴返る 青森市 小山内豊彦
★赤ちゃんの誕生を待つ四月 川越市 福田愛子
★春好む大空襲の語り部も 東久留米市 飯山徳次郎
★崩落の甍に二日の月冴ゆる 珠洲市 竹沢平和吉
★戦なきゴム飛行機や春の夕 三郷市 村山邦保
★子の真似をして兎跳び春の野辺 千葉市 森田千代子
★温む水飲む鶏の薄目して 千歳市 鶴谷雪子
(高野ムツオ選)
★白梅や夕日の色に染まらずに 我孫子市 森住昌弘
★畑を打つ汚染土削ぎし故郷の 小山市 松本喜雄
★畑打やいつも近くに仏国土 京田辺市 加藤草児
【評より】父祖伝来の畑の耕し。どこにでも仏が住んでいるとは、父の教えなのであろう。
★復員の父を迎へに春の雲 福島市 引地こうじ
★傘寿とて夢に向かうや蛍烏賊 本庄市 堀口ハル子
★牧牛の遠目に咀嚼春の雲 芦屋市 田中 俊
★陽炎の街へ戻りぬセールスマン 北上市 佐々木清志
(正木ゆう子選)
★踏青や重力といふ勝れ物 横浜市 前島康樹
★鳥雲に知恵あるものを先に立て 東京都 大武美和子
★相撲技網打見たり百歳に 東京都 市村弥栄子
★落椿踏めば祟りのありそうで 匝瑳市 椎名貴寿
★つくしんぼ目立たぬやうに生きる日日 八王子市 梅沢春雄
(小澤實選)
★チンパンジー縦に手を打つ花の昼 日立市 菊池二三夫
★自転車を押して帰るや春夕焼 前橋市 山本 亨
【評より】自転車に乗ってではなく、押して帰るとは、何か大きく気持が動いたのであろう。
★春一番雀がつんのめつて飛ぶ 甲府市 村田一広
【評より】春一番の強い風に逆らって、雀が飛んでいる。
★蓬餅二つ呉れたり泣きやめば 伊勢市 藤田ゆきまち
★名画座にかすかな鼾花の昼 川口市 高橋まさお
★靴擦れの踵テープや新社員 国分寺市 野々村澄夫
★若草や白の新品スニーカー 柏市 小畑昌司
★スカイツリーの天辺見えず春の雨 東京都 長嶋佐渡
(小池光選)
★むかしむかし父に挑んだ少年が今日孫とさす将棋を真剣(まじ)に 海老名市 間藤義教️
★石を割り石器を手にした人類が核ミサイルを作り出すまで 倉敷市 中路修平
★ゆったりと湯槽に浸かる心地してひばりにはるみになおみの唄聞く 所沢市 小室佳久
★老いてひとりの兄よ今宵は何食べたテレビは故 郷の菜の花うつす 西条市 山本美知子
★さん付けがちゃん付けになるクラス会戦後はみんな貧しかったね 奥州市 小野寺正美
★ディテールに凝ったブラウス着て君に褒められにゆく印象派展 仙台市 藤原はるか
★無事故なる今日一日に感謝して夕日の映える月山拝む 山形市 柏屋敏秋
(栗木京子選)
★ほんとうの春はまだまだ氷見の家ブルーシートをめくりて入る 富山市 荒田真智子️
【評】氷見は富山県北西部の地。能登半島地震で被災した家なのかもしれない。下句のしぐさから苦難の生活がわかる。「ほんとうの春」の「ほんとう」が重く心に残る一首。
★黒田杏子氏一周忌記念『花巡る』は故人が中心に坐す曼荼羅図の如し 東京都 青山 繁
★日本人多い街に来てチャリティーで「上を向いて歩こう」を歌う オランダ 宮沢洋子
★脱税のニュースを聞いてスーパーで明日のパン買う四円のおつり 東京都 稲山博司
★立ち枯れて茎折れ垂るる芭蕉ありずつとバナナと思ひてゐたり 横浜市 森崎貞夫
(俵万智選)
★百年の眠りを解いてやるように水へと放つ切り干し大根 平塚市 小林真希子
★通勤で啓発本を読む人の座席を譲る動きがきれい 下関市 伊藤雄大
(黒瀬珂瀾選)
★旅に来て用無く巡るスーパーに主婦業からの解放感満つ 兵庫県 和泉純子
★白杖をはじめて握り歩き出す年を老いても私らしくて 奈良市 浦城亮祐
★蛇口よりあふるる水に涙する被災地の主婦に我も涙す 相模原市 渡辺世津子
★春さえも忘れてしまった母なのに花の絵はがき獄に送り来 山形市 内牧白岳
★はぐれたる鴨が群れへとみづからで辿りつくまで子と見守りつ 千葉市 小金森まき
★孫たちの腹が減ったの連発はでかくなるぞの兆しに聞こゆ 青梅市 梅田啓子
★ポリーニのショパン響かせうたた寝をしている父の指先が舞う 札幌市 住吉和歌子
▼高野公彦著『歌の魅力の源泉を汲む―わが意中の歌人たち―』
正岡子規から坂井修一まで18人を考察した評論集。歌人たちが切り開いた世界が立体的に迫ってくる。(柊書房、3080円)
▼波克彦歌集『新世紀』
歌誌「歩道」編集人を務める歌人の第2歌集。国内外で過ごした多忙な日々を、日記をつけるように詠み続けてきた。 (KADOKAWA、2860円)
★アフガンの街には春の遠からん爆撃に崩れ地震に崩れて
▼三石知左子句集『小さきもの』
医療センター院長で小児科医でもある俳人の第1句集。医療現場で働く日々を生き生きと描写する。(朔出版、2750円)
★手袋をはめたる指の語りだす
▼第23回俳句四季大賞=小澤實句集『澤』
▼第12回俳句四季新人賞(30句)=関灯之介「暗き河」
▼第11回俳句四季特別賞=二川茂徳句集『牛歩』
▼第24回現代俳句大賞=寺井谷子