4/21朝日俳壇・歌壇。

◎高山れおな選

★引く雁にひとり手を挙ぐ畑の人 (東京都足立区)望月清彦

★てふてふのカーブミラーに恋をして (名古屋市)鈴木修二

★鷹鳩と化しライオンの大あくび (福岡市)高山國光

 ※「鷹鳩と化す」という季語に「ライオン」を持って来たのは面白い。俳人ならでは。

 ※「鷹鳩と化す」=七十二候の一つ。3/16~20日頃。中国の俗信からきたもの。春の幻想的な気分をあらわしている季語。

★お浸しも味噌汁の具も茎立菜 (会津若松市)湯田一秋


◎小林貴子選

★仮面夫婦などなき恋の雀かな (横浜市)飯島幹也

★庭蜥蜴だんだん餌に反応す (川崎市)沼田廣美

★蜷の道やつと敦賀へ新幹線 (河内長野市)西森正治

★寄席を出て独り笑ひの遅日かな (東金市)村井松潭

★てんつくとてんつくつくとつくつくし (福井県越前町)珠凪夕波

★家族にはわざとむっつり合格子 (多摩市)金井 緑

★潮干狩お尻同士がぶつかって (京都市)山口明紀

★歳時記てふ物の缶詰桃の花 (長崎市)下道信雄


◎長谷川櫂選

★白魚に金色の管ありにけり (津市)中山道治 

★春愁や抜けばまた立つティッシュペーパー (我孫子市)藤崎幸恵

★貧しさの果て一握の種を蒔く (一宮市)岩田一男

★能登に来る燕は我が家探しをり (市川市)をがはまなぶ

★いかなごのくぎ煮や母の三回忌 (紀の川市)中島紀生

★春愁や髪薄ければなほさらに (福岡市)釋 蜩硯


◎大串章選

★生きがひは生きがひつくること日永 (塩尻市)古厩林生

★蜜蜂の羽音に蘂のゆるびけり (八代市)山下しげ人

★白鳥の地球を丸く帰りけり (所沢市)木村 佑

★路地曲がること嬉しがる春の風 (垂水市)瀬角龍平

★春月の地球の病みをみつめをり (札幌市)伊藤 哲

★忠魂碑囲み今年も桜咲く (美祢市)杉野昭朗

◎高野公彦選

★大銀杏結えぬ青年けが押して大阪制す「よぐ、けっぱった」 (東京都)椿 泰文

 【評】先日の大阪場所で優勝した五所川原市出身の若き尊富士を讃える。津軽弁を引用し、生き生きとした歌になった。

★宗教は人の心を救いつつ〈正義〉のために肉体を撃つ (大洲市)村上明美

★キョン除けの網で囲ひて明日葉の収穫もどりしわが家の畑 (東京都)大村森美

 【評】小型の鹿に似たキョンは可愛いが農作物に被害を与える。作者は大島在住。

★手を合わせプールへ深き礼をする五輪出場決めし璃花子は (観音寺市)篠原俊則

★足湯にて見知らぬ人と話すのは相撲の熱海富士関のこと (町田市)山田道子

★梅一気さくら開花は一呼吸楽しみ数多今年の春は (川崎市)杵渕有邦

★散歩道の空き家は三軒閉ざされた雨戸の奥の消えた日常 (本庄市)田中 礼子

★あの頃の母は六条御息所大人の世界かい間見育つ (東京都)鈴木ひろみ


◎永田和宏選

★「記録より記憶」怪我さえけっぱって土俵に上がる津軽のじょっぱり (五所川原市)戸沢大二郎

★追ひつけぬ背を追つてゐた長尾さん朝日歌壇の兄貴が死んだ (甲府市)村田一広

★お座りをやつとしてゐるガザの子のつみ木のやうに瓦礫に遊べり (横須賀市)今津美春


◎馬場あき子選

★世界から見捨てられたる命とふガザの看護師現場離れず (秩父市)畠山時子

★抱いている親のどこかをつかんでる赤ん坊の手の力強さよ (郡山市)遠藤雍子

★仰向けに孫の動画を見て過ごすブロック注射あとの安静 (福山市)倉田ひろみ

★馬車道を姉と歩けばしっとりとした気分馬の気配も感じ (富山市)松田わこ 

★「真夜中のナースコールに躊躇して夜はオムツで朝まで耐える (京都府)片山正寛

★「戦争は悪だ」と詠みし歌人あり今こそロシアにはたイスラエルに (多摩市)柳田主馬

☆学校で教えるという鬼ごっこ餓鬼大将も絶滅危惧種 (さいたま市)松田典子

 ※佐佐木幸綱共選。

★臨終の母の病室温かくガラス一枚距つる吹雪 (多摩市)豊間根則道 

★ユダヤ人アラブ人が共に暮らしたるフィルムに映る眩しき春陽 (石川県)瀧上裕幸


◎佐佐木幸綱選

★あかきあお傘と傘とが触れあって新一年に初めての雨 (大津市)阪倉隆行

★妹が骨折したる経緯(ゆくたて)をふむふむと聞きそののち笑ふ (伊賀市)秋田彦子

★友を待ち何時間でも駅に立つそんな時代を生きし幸せ (境港市)大谷和三

★花柄の人数分のカレー皿五ヶ月ぶりに父退院す (佐倉市)塩田真知

★果樹園の花のかげより人声が聞えて春の作業がはじまる (アメリカ)ソーラー泰子 


◎「短歌時評」

◎「風信」欄