4/16読売・歌壇。

(矢島渚男選)

★鳥帰る句会のありしシベリアへ 東久留米市 飯山徳次郎

 【評】シベリアへ抑留された経験をされ、そこでの句会で俳句を知ったのであろうか。そして辛い過去も今は懐かしいものとなっているのだ。 

★看板の文字の中や小鳥の巣宝塚市 武田優子

★ブランコに知らぬ子のゐる夕まぐれ 西東京市 永井康信 

★雛まつり座る文化の守らるる 佐賀市 栗林美津子

★全ページ春の嵐がめくりけり 東京都 関根ともみ

★明石まで来しに鮊子(いかなご)入荷なし 宝塚市 広田祝世

(高野ムツオ選)

★いかやうに国はあらうと初桜 浜松市 宮田久常

★白木蓮開けの合図待ちにけり さいたま市 鈴木栄一 

★亡き犬を抱きしめており春の夢 東京都 山田真理子 

★すかんぽや絶交しても三日ほど 北上市 佐々木清志 

★子らと会ふ妻の手提に蕗の薹 佐野市 桑原 博 

★肩先に桜蕊降る離任式 福島市 引地こうじ

(正木ゆう子選)

★妻死せば佃煮と飯春夕べ 横浜市 栃木安穂

★亡き人と共の余生や初椿 那珂市 綿引多美子 

 【評より】椿が咲き始めましたよ、と知らず知らず話しかけている。

★不安などなかりし日々や桜貝 佐野市 落合葉子 

★鑑賞の深みにはまる朝がすみ 柏市 佐藤敏文

★火を焚いて見送る港鰹船 日南市 宮田隆雄 

(小澤實選)

★うららかやインコの真似る着信音 横浜市 岡まゆみ

★一揺すりして浅蜊らを黙らせる 北本市 萩原行博 

★畑まで行きて卒業証書見す 東京都 山口照男 

★撮り鉄に踏みつぶされし蕗の薹 栃木県 あらゐひとし 

(小池光選)

★終刊を決めし主宰は梅匂ふ先師の句碑の前にぬかづく 日立市 鶴岡育枝 

★スイングし「東京ブギウギ」うたひたり嫗三人(みたり)の真昼のカラオケ 富山市 杉浦良子

★遺されし眼鏡ケースに夫がメモ「浪花のことも夢のまた夢」 座間市 高田孝子 

(栗木京子選)

★まだ慣れぬランドセル背に兄の手に引かれて逃げたチリ津波の朝 旭市 工藤 豊

 【評より】1960年5月にチリで大地震。津波は日本列島も襲った。小学生だった作者の感じた恐怖、そして兄の頼もしさ。強烈な記憶が詠まれている。 

★短命と告げられし娘と半世紀共に歩みて我は傘寿に 東京都 村上八重子

★画面より救い出したし空爆の埃に白く怯える子らを 大阪市 真野良子

(俵万智選)

★改札を抜けて大股に駆けて来るあなたの見えるこの店が好き 東京都 河野多香子

★盛り付けを終えた夕げの「。」として端にひと粒置くミニトマト 平塚市 小林真希子

★孟宗の林に夕陽差し込めば幹の濃みどり光をはじく 市原市 井原茂明 

(黒瀬珂瀾選)

★無駄でなきひと日過ぎしと為ししこと手帳に三行書きてから寝む 日野市 那須真治

 【評】記録に残されたことだけが事実だ、なんてことを思ったりしました。自分は毎日をしっかり生きているのか、という問いを日々おのれに課しておられるのでしょう。 

★見回して出番待ってる生き字引長くなるから誰も引かない 秋田市 菊地秀悦

★隆起した能登の岩海苔畑(いわのりばたけ)には強風ふいて波の花舞う 川越市 石田浩二郎

★家中のもろもろ捨ててただ一つ夫と我との恋文残す 河内長野市 宮守 富

★ゆうらりと浮かぶ海月になりたいと言えば漁師があんな邪魔者 船橋市 花沢冨美雄

★菜の花に憩う揚羽のうすみどり花に染まりて花になりたり 橋本市 宮本好美


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