(1)「鶏頭花」(H20〜)
★声立てて笑ふ嬰となり木の芽晴
★晩学の道はゆつくり黄水仙
★蕗の薹死ぬる話はあと回し
★なれそめはとうでもいいの桜餅
★こころざし捨つるは易しほたる湧く
★半日を百の粽を結うてをり
★どの子から話聞かうか鳳仙花
★動くものほしくて金魚買ひにけり
★寝言にも言へぬ秘め事水中花
★忘れたき過去はさて置き髪洗ふ
★秋がもうほら鍵穴の向かう側
★かなかなや丈夫な母と病む夫と
★鶏頭花一輪抱かせ夫葬る
★秋冷えや永久の棺の小窓閉づ
★開戦日行つて来るぞと征つたきり
★年末ジャンボ買うて迷ひし置きどころ
★日向ぼこ母に授かる知恵袋
★梅二月死者は真白き衣まとひ
(2)「菓子作る」H25〜
★初春や夫の残せし世を生きむ
★人日や手の勘戻る菓子工房
★料峭や看取り介護に捺印す
★菓子作る指の撓ひも弥生かな
★穴出でて五十路に迷ひなかりけり
★一点の疵無き空や卒業す
★鶴帰る定年の無き自営業
★春ショールはらりと解きて過去の恋
★お地蔵のバンダナ腹掛け山笑ふ
★逢いに行く為の鬼灯買ひにけり
★梅雨深し淋しき時はパスタ茹で
★ひまわりと書かれしドアが母の部屋
★蚊帳そつとくぐれば母に会へさうな
★凌霄花や孤独楽しむ術を知る
★夫の忌のあの時の空九月来る
★秋風やゆるみてきたる骨密度
★鬼の子や終の栖に錨打つ
★団欒の丸き卓袱台文化の日
★菓子作る他は知らずよ年詰まる
「冬薔薇」H28〜
★夫の世に吾が世を重ね鏡餅
★余生とはグリコのおまけ水温む
★かといつて投げ出すことも春愁
★余寒なほ女ごころの揺れどほし
★三代の仏具磨きて梅雨に入る
★梅雨晴や息止めて撮る検診車
★炎天や鳴かず飛ばずの小商ひ
★花菖蒲活けて菓子屋の三代目
★女とも妻ともなれぬ暑さかな
★黒南風や初めて覗く懺悔室
★地球儀の日本真つ赤敗戦日
★天の川涙忘れしはずなのに
★生くるとは箸を持つこと盆用意
★この恋はさうだ鶏頭の飛び火かも
★銀漢やわたしに未来ありますか
★来世とはこの世に似しか夕月夜
★商ひに明け暮れ勤労感謝の日
★まだ打たぬ恋の終止符冬薔薇
★湯豆腐のことこと音も一人分
★独りとはかういふものか冬木立
「温め酒」H29〜
★あらすじは無き人生や去年今年
★たんぽぽを吹きて島へと転校す
★一片もこぼさぬ花の驕りやう
★いくつかの秘密畳し春ショール
★平成は令和へ流れ花筏
★ままごとのママはおしやべり黄たんぽぽ
★ままごとのお子様ランチさくらんぼ
★船頭の口にも乗りて花見舟
★母の日や遠く住む子も近き子も
★女にも大志ありけり心太
★羅を着て中七の定まらず
★地球儀を廻しこの世の夕端居
★晩年は何時より飛魚(あご)は空を蹴り
★蛍狩もしあの頃に戻れたら
★夫疾うに知らぬ世を生き明易し
★だるまさんがころんだ振り向けば夏
★雑巾のねぢれてかはく原爆忌
★一匹を二人でほぐす初さんま
★沈黙は訴ふる事汀女の忌
★丹頂の朱(あか)を落とさぬ歩きやう
「しゃぼん玉」H30〜
★ご破算で願ひさうらふ初御空
★蒲公英の絮飛び主宰なき句会
★団塊の世代と呼ばれ亀鳴けり
★しやぼん玉吹く子こはす子追ふ子ゐて
★縄電車出発進行春動く
★かうなればひとりもよろし冷奴
★今日よりも明日を信じて髪洗ふ
★握られて握りかへす手蛍狩
★過去未来繋ぐ命や凌霄花
★愚痴に耳貸す夫欲しき夜寒かな
★秋まつり足袋のふんばる石だたみ
★下校児に朝顔の種もらひけり
★みのむしや人はこの世に仮り住まひ
★湯豆腐やいまだ解けざる蟠(わだかま)り
★四ツ割の白菜で足る暮らしかな
★風呂敷てふ文化ありけり一葉忌
★夫遠く父母なほ遠し銀河澄む
★雪見酒しばしこの世に道草す
「陶の風鈴」R2〜
★人なべてひとつの命初明り
★医帰りや花観る為の遠回り
★花月夜今生よりも死後ながし
★伴侶なく早や十余年春おぼろ
★水草(みくさ)生ふ十七文字の底力
★生きてるよ躑躅も咲くよ逢ひたいね
★春ショール貰ひ外出出来ぬ日々
★かうなれば急(せ)くこともなし冷さうめん
★昨日明日繋ぐ今日あり凌霄花
★振り売りの陶の風鈴振つて買ふ
★捩花や戻るにはもう来すぎたり
★七夕や願ふとすればご破算に
★湯豆腐やくずれやすきは吾がこころ
★ボジョレヌーボー話まあるく収まりぬ
★生きたりぬまだ生きたりぬ冬至風呂
uRL