小田恵子さん遺句集「菓子工房」(3) 「温め酒(H29〜)」「しゃぼん玉(H30〜)「陶の風鈴(R2〜)より

「温め酒」H29〜

★いくつかの秘密畳し春ショール

★平成は令和へ流れ花筏

★ままごとのママはおしやべり黄たんぽぽ

★船頭の口にも乗りて花見舟

★女にも大志ありけり心太

★蛍狩もしあの頃に戻れたら

★夫疾うに知らぬ世を生き明易し

★沈黙は訴ふる事汀女の忌

 ※中村汀女の忌日は9/20(1988年)

★人生はこれからと決め温め酒

★丹頂の朱(あか)を落とさぬ歩きやう

 ※姉・保子さんと北海道に旅行に行かれたことがあった。その折の句。


「しゃぼん玉」H30〜

★息はづむ子等にお捻りもぐら打ち

★蒲公英の絮飛び主宰なき句会

 ※所属されていた「母港」の主宰・西山常好氏が2020年12月逝去された。

★かうなればひとりもよろし冷奴

★今日よりも明日を信じて髪洗ふ

★握られて握りかへす手蛍狩

★愚痴に耳貸す夫欲しき夜寒かな

★秋まつり足袋のふんばる石だたみ

★四ツ割の白菜で足る暮らしかな

★風呂敷てふ文化ありけり一葉忌

 ※樋口一葉の忌日は11/23(1896年)。

★夫遠く父母なほ遠し銀河澄む


「陶の風鈴」R2〜

★左見右見(とみこうみ)今日咲くさくら散るさくら

★伴侶なく早や十余年春おぼろ

★水草(みくさ)生ふ十七文字の底力

★昨日明日繋ぐ今日あり凌霄花

★振り売りの陶の風鈴振つて買ふ

★捩花や戻るにはもう来すぎたり

★七夕や願ふとすればご破算に

★湯豆腐やくずれやすきは吾がこころ

★さよならはまた会へること寒の星

★生きたりぬまだ生きたりぬ冬至風呂

 最後の「生きたりぬ〜」の句を読んだ時は胸がつまり泣いてしまいました。

 次ページ(4/15)には全収録句を一覧にしました。