4/6NHKラジオ文芸選評(短歌) テーマ「猫」、選者は穂村弘さん。

◎入選作品


★夏祭りと同じ日に猫のお産あり腹を撫でやる催促されて(新潟県 三浦ユリコさん 80)


★猫缶をチンしてあげるきみが狩る獲物はきっとあたたかいから(栃木県 シラソさん 39)


★窓越しに目の合う猫が置物と知るのは少し先の話で(三重県 藤田ゆきまちさん 48)


★ペダル踏む足のあいだをすり抜けた早川ピアノ教室の猫(神奈川県 久藤さえさん)

 ↑穂村弘さんのイチオシ作品。


★手仕事の猫のつぐらの小包を開ければ雪のひかりの匂い(東京都 稲山博司さん 65)


★日盛りの人影少なき湊町監視カメラの猫の差し足(石川県 神田博行さん 74)


★宝石を持ち寄るように町中の猫よ集まれ夜の空き地に(福井県 西 爽子さん)


★その朝に別れた猫の死をフェリー埠頭の暗き待合所で聞く(福島県 可笑式さん 58)


★旅を終え玄関を開ける時にまた聴こえてしまう亡き猫の声(神奈川県 友常甘酢さん)


★きょうからはぶつかるあたまがなくなって仔猫はごはんはんぶんのこす(千葉県 小倉弓さん)


★あくびして牙があらわになる猫とわかりあえないことも楽しい(千葉県 星野珠青さん 35)


★われのあごねこのあたまにこすりつけずっといっしょにだい好きだよと(青森県 山口秀子さん 73)


★白黒のほとんど白の野良猫の切られた耳に黒はあったか(長崎県 公木正さん)


★地表から剥がれるように愛猫は蜘蛛をめがけて天に落ちゆく(愛知県 月見だいふくさん 44)


★まず猫が消えて貴方が居なくなるシャボン玉など膨らませたから(千葉県 小林菫子さん 36)


◎来週13日は俳句、兼題は「春風(はるかぜ・しゅんぷう) 」、選者は池田澄子さん。


【穂村弘さん】

1962年北海道札幌市生まれ。歌誌「かばん」所属。2歳のときに父親の転勤で神奈川県相模原市に移り、1972年横浜市1973年には名古屋市に転校。1981年北海道大学(文I系)入学。この頃、友人の影響で塚本邦雄作品を読んだことから、短歌に興味を持つ。しかし北海道大学を退学し1983年上智大学(文学部英文学科)に入学。1985年林あまりらの作品に触発され、作歌を開始。1986年、連作「シンジケート」で第32回角川短歌賞次席(この年の短歌賞は俵万智)。「シンジケート」は「かばん」誌上にて林あまりに激賞された。上智大学卒業後はシステムエンジニアとして就職。この頃、荻原裕幸が企画・運営したシンポジウムに参加し同世代の歌人たちと知り合う。1988年かばん」に入会。1990年、第1歌集『シンジケート』、1992年、第2歌集『ドライ ドライ アイス』を刊行。1994年、初のショートストーリー集『いじわるな天使から聞いた不思議な話』を刊行1996年、絵本の翻訳を始め、1998年、加藤治郎・荻原裕幸とニューウェーブ歌人3人で、企画集団SS-PROJECT(エスツー・プロジェクト)を結成。インターネットを積極的に利用するなど、歌壇にとらわれない活動を展開2001年、第3歌集『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』、2002年初のエッセイ集『世界音痴』を刊行2003年読売新聞読書委員に就任(2004年まで)2008年、評論集『短歌の友人』で第19回伊藤整文学賞(評論部門)受賞。同年9月『楽しい一日』で第43回短歌研究賞受賞。また石井陽子とコラボレーションしたメディアアート作品『火よ、さわれるの』でアルス・エレクトロニカインタラクティブ部門栄誉賞を受賞。日経歌壇選者に就任。2009年朝日新聞書評委員に就任(2012年まで)。2013年、絵本『あかにんじゃ』で第4回ようちえん絵本大賞特別賞受賞。2015年NHK全国学校音楽コンクール(高等学校の部)課題曲『メイプルシロップ』の作詞を担当。2017年、エッセイ集『鳥肌が』で第33回講談社エッセイ賞受賞。2018年、第4歌集『水中翼船炎上中』で第23回若山牧水賞受賞。2020年文藝賞選考委員に就任。今回紹介された穂村弘さんの作品↓

★前肢で触って水を確かめるまだ五月しか知らない仔猫

★このまんまポストに投函できそうな仔猫が掌のなかで眠ってる