4/1読売俳壇・歌壇。
★思ひ出が介護の支へ黄水仙 橋本市 若崎喬子
【評より】この人と楽しい思い出もあったと思えば、そのことが励ましになる。
★駄菓子屋の硝子戸開けるみすゞの忌 葛城市 山本 啓
【評】金子みすゞは悲劇の童謡詩人。 雑誌への投稿作によって後世に認められ、教科書にも載った。彼女が26歳の若さで自殺したのは1930年(昭和5年)3月10日だった。
★啓蟄や小舟漕ぎ出す島の朝 相模原市 はやし 央
★梅白し瓦礫の中の輪島塗 大津市 千川修一
(高野ムツオ選)
★竜天に昇りしのちの大河かな 上尾市 中野博夫
【評】「竜天に登る」はもとより古代中国に伝わる想像上の産物。だが、こう断定されると雪解水を湛えた大河の勢いや音が、確かに竜が登った あとの余韻そのもののように感じられるから不思議。
★捨つる程出来ぬ俳句や冴返る 川口市 広田絹子
【評】多作多捨が俳句の極意。それは先刻承知ながら実行できないので、春寒の炬燵でつい頭を抱える。同病相憐れむの感、大いにあり。
★傷みたる翼のごとき斑雪 久喜市 深沢ふさ江
★街川はよどみしままや木の芽張る 佐賀市 栗林美津子
★田楽の味噌たれぬよう二口目 草津市 中村美智代
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(正木ゆう子選)
★菜の花の一望麻酔より帰還 松本市 石垣立夫
【評より】全身麻酔から覚めた直後。一望の黄はまだ幻想の景だろう。しばらくは夢に現に様々な景や模様が見える。
★温羅(うら)といふ鬼棲みし山春暑し 伊賀市 福沢義男
【評より】温羅は岡山県吉備地方の伝承の鬼。
★いつも手をつなぎし頃や桜貝 東京都 伊藤直司
【評より】幼子と親。子供同士。恋人。新婚夫婦。さまざまな二人が考えられる。
★土佐は山土佐は海なり春の旅 岡崎市 加藤幸男
★春の野に下の名前を思ひ出す 奈良県 若林明良
★春めくや秀麗無比の鳥海山 秋田市 進藤利文
★春キャベツあと千玉と拭ふ汗 八幡市 会田重太郎
(小澤實選)
★ビートルズ好きな老人目刺焼く 郡山市 寺田秀雄
★歯を削る音と匂ひと花の昼 川越市 益子さとし
★九十九の母も雛の日ちらし寿司 八尾市 久田雅子
★韮刻む喧嘩のやうな広東語 北本市 萩原行博
★典座(てんぞ)来て擂粉木を撰る農具市 名古屋市 可知豊親
※「典座」=禅宗寺院で、大衆の斎飯などの食事をつかさどる役職。
★平飼ひの卵ずつしり春日和 神戸市 吉野勝子
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(小池光選)
★おもひ出はうつくしきかな逝きし妻と小諸城址をあゆみてゐたり 小美玉市 松山 光
★する事があまたとなれば辛くなり何もなければなほさら辛し 多摩市 秋元玉江
(栗木京子選)
★液体のごとく上手に子猫たち籠に収まり寝息を立てる 京都市 峰尾秀之
★ 幼な子は歩き始めた妹に歓声おくる「ベビーしゆごい」と 八街市 宇野香都里
★木製のコーヒーミルをわが挽けば幼き孫が手を添えてくる 仙台市 千葉幸平
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(俵万智選)
★読み聞かせた童話を思い出しながら木こりの気分で切るブロッコリー 平塚市 小林真希子
【評より】童話の世界が、声に出して読んだ本人の身体に深く染み込んでいる。
★「ドレッシングは別世界です」千切りの僕を置いてくなんて嘘でしょう ? 仙台市 まつのせいじ
【評】「別添えです」の聞き間違いから始まるドラマ。キャベツの気持ちに成り代わるという発想が面白い。
★キッチンが物を言うからていねいに答えて妻は味噌汁つくる 八王子市 斎賀 勇
(黒瀬珂瀾選)
★咲く梅も散る梅もあり春は来ぬ原発事故のデブリそのまま 福島県 黒沢正行
【評】東日本大震災から十三年。時は過ぎ、季節は巡る。しかし、危険な溶融燃料のデブリは原発の炉内に残ったまま。まだ何も終わっていないのだという東北の現実がある。
★お荷物でごめんなさいと言う妻の体重さらに減ってしまえり 東京都 式守 操
【評より】心配なのは妻の自身を責めがちなその心…。
★この家はいっとう閑かショートへと祖父を預けて新月の母 金沢市 塩本 抄
★難病と共に生き来し老いの身にほくほく匂ふ妻の肉じゃが 松山市 三木須磨夫
◎「俳句あれこれ」逢って話して② 佐藤文香
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逢って話して② 佐藤文香
私の先輩は、句会や飲み会によく呼ばれる。俳句の大会で選者もするし、結社や総合誌の仕事もまわってくる。日中は会社員として働きながら、そういった誘いや仕事をこなすのはすごいが、自分の句集をまとめるのを後回しにし続けてきた。
そんな先輩・阪西敦子さんの句集『金魚』(ふらんす堂)が、ついに刊行される。小学生で俳句を始めた敦子さんの四十年に渡る作品が収められている。「ホトトギス」と「円虹」の伝統を受け継ぎつつ超結社句会でも研鑽を積んだ、現代的で気持ちいい作風だ。
私はこの一年、敦子さんの句集制作に伴走してきた。私のつとめは「時間を確保すること」。 敦子さんの部屋で、私の家で、 近所のお店で、コーヒーを飲み 雑談しながら、句集のための時間をともに過ごした。
★東京に友人多し絵双六 阪西敦子
句集『金魚』を手にした人たちの喜ぶ顔が目に浮かぶ。(佐藤文香)