俳句ポスト365、兼題「余寒」の回、中級者以上、金曜日「特選」(10句)

★とりけもの声ほの硬き余寒かな いさな歌鈴

 〜(夏井先生の選評全文。以下同じ)「とりけもの」は、種を確定せず、野に生きるものたちを総称しています。「余寒」とは、寒が明け、春になってからの寒気。季語「春寒」よりは「寒」の方に軸足がある感覚です。鳥も獣も寒の終わった安堵を本能的に感じてはいるのだけれど、その声は「ほの硬き」と感じられる。映像を持たない季語「余寒」を、感知している鳥と獣と人間が一人。


湖しづか余寒の芯として櫂は 常幸龍BCAD

 上五で、風のない静かな湖を描き、中七に「余寒の芯」という詩語を置きました。「余寒の芯」といわれても、感覚的なものがぼんやりとあるのみですが、「~として櫂は」という展開によって、湖の真ん中に小舟を漕ぐ櫂が鮮やかに出現します。櫂が起こすさざなみは、「余寒の芯」を映像化して、冷たく静かに広がっていきます。


隆起波止場や息む余寒の犬痩せて ま猿

 前書として「令和六年能登半島地震」と記されています。言葉をかなり強引に畳み込んだ調べになっていますが、それが切迫した思いとも重なります。「息む」とは、犬の出産か、それとも排泄か。いずれにしても生きるための悲しき営みです。地震で隆起した港の「余寒」の波、冷たい潮の臭いまでもが押し寄せてくるかのような切々たる作品。