★酒肆を出た顔に余寒の右フック 吟梵
★瓦斯の火のぽぽと余寒を舐め出しぬ 火炎幸彦
★肉片を咥へ余寒の鴉発つ 三月兎
★バリウムの残る躰や余寒の夜 沼野大統領
★折衷案蹴って余寒のビルの灯よ 岬ぷるうと
★仁王の眼の力いや増す余寒かな 渡嘉敷五福
★失職の余寒の腹のきゅうと鳴る 冬のおこじょ
★晒されて土は余寒を受け入るる そら
★点鬼簿に同じ日付の余寒なほ 嶺乃森夜亜舎
★町中が水待ちならぶ余寒なほ 笑姫天臼
★海鳴りが耳に澱んでゐる余寒 久森ぎんう
★象ゐなくなつた象舎の余寒かな 晴田そわか
★湯灌せし軀しづかな余寒かな 福花
★猿山の喧嘩見下ろす余寒かな 遠山比々き
★不明者の一覧たどる指余寒 唯果
★鬩(せめ)ぎあふ湯気よ余寒の蒸しぱん屋 みやま千樹
★鶏舎へと消毒液を踏む余寒 さるぼぼ17
★余寒の夜半エレベーターの鏡の吾 仁山かえる
★九つを打つて余寒の慰霊祭 キートスばんじょうし
★象の目の潤み余寒の鉄格子 城内幸江
★余寒なほ象の鎖を重くせり 笑笑うさぎ
★医師として父の腹水抜く余寒 星埜黴円
★猿山の余寒閉園告げる曲 大岩摩利
★余寒なほ被爆樹木の持つ痛み 河上摩子
★大菩薩峠余寒のタイヤ痕 丁鼻トゥエルブ
★外階段の音して帰宅らし余寒 武井かま猫
★余寒なほ被災の漏水菅あらわ せとみのこ
★東京に慣れず余寒のランドリー 海老名吟
★倒壊の家に押し入る余寒かな 菊池克己
★炊出しの湯気やはらかき余寒かな 俳句ファイヤー立志
★乗継のホーム短しただ余寒 大山和水
★父としてぼそり余寒の裁判所 酒井おかわり
★貝塚の万年分の余寒かな 沙一
★6号線余寒の波の荒立ちて 星影りこ
★吊り下げて肉屋の奥にある余寒 せいち
★睡魔とか尿意とか廊下を余寒 無弦奏
★搾乳器あてる深夜の余寒かな 空井美香
★余寒の灯漏れて敷金戻らない げばげば
★龍神の能登半島の余寒かな 田邉真舟
★御免では済まぬハチ公前余寒 藤田ゆきまち
★金敷に木槌余寒の作業部屋 木染湧水
★謝りてしばし余寒の屋上へ 渡辺香野
★管である我よ余寒の再検査 樋口滑瓢