3/25毎日俳壇・歌壇
★スプリングコート一日持ち歩く 川崎市 折戸 洋
★妻逝きて九年菩提樹芽吹く庭 高松市 島田章平
★煙突のてつぺんに人春の雲 平塚市 日下光代
★野をゆけば草の息あり春浅し 平塚市 正好 浩
★菜の花を生けて備前の壺ひとつ 日高市 秋葉ふじ子
(小川軽舟選)
★炙りたる諸子(もろこ)に父の酒すすむ 東京 山口治子
★五十年同じ門灯暖かし 香芝市 山本合一
★カトラリー並ぶテーブル春隣 見附市 岡村文子
※「カトラリー」=食卓用刃物の総称。ナイフ、スプーン、フォークなど。
(西村和子選)
★柔らかき光放ちて硝子雛 大阪市 浜崎美智代
★クローバー遠くで母が呼んでいる 河内長野市 守口幸子
<評>クローバーが一面に咲いているのを見ると子供の頃が思い出される。母の声は幻聴。
★林中に隠れ家めきし梅の茶屋 葛城市 八木 誠
★靄立てる山より春の立ちにけり 島根 高橋多津子
★日に雨に膨らむ岸の猫柳 羽生市 岡村 実
★紙テープ伸びて千切れて島の春 東久留米市 矢作 輝
★濡れ縁に鶏上がりゐて長閑けしや 東京 山口照男
★日向ぼこ幸せそうな愚痴一つ 神奈川 新井たか志
★猫抱けば日向の匂ひ日脚伸ぶ 甲府市 山田敦子
(井上康明選)
★雲の上雲の中ゆく春の夢 大阪市 吉田昌之
★花冷えや東京行きの切符買ふ 甲府市 清水輝子
★春一番気ままにをどるレジ袋 宝塚市 大曲富士夫
★志高くと答辞卒業す 東京 茶茶
★まだ人の怖さも知らず雀の子 湖西市 宮司孝男
★涅槃西風大口開けて泣く羅漢 藤枝市 山村昌宏
★様々な握手を交はし卒業す 東久留米市 夏目あたる
★暖かや石見訛りの人とゐて 雲南市 熱田俊月
(伊藤一彦選)
★勲章より脚ある方がよかったと虚ろに語るロシアの兵士 つくば市 小林浦波
★守るべきもの失ひし城壁は舞ひ散る花に鎮もりてあり 神戸市 中林照明
★春雨に誘い出されたミミズらの水に溺れし啓塾の朝 宮崎市 上米良綾子
★満天の星空捨てた人々が手元に灯す小さな明かり 名古屋市 外山 雪
★信じてる 昼の見えない星さえもすべてひかりを発してるから 東京 石川真琴
★公園のジジジと灯る街灯が今日のわたしのbirthを祝う 春日井市 月夜の雨
★だん、だん、と御堂にリズム刻みゆく修二会の僧の春呼ぶ沓音 奈良市 島本太香子
★散りて来しサクラも入れて庭先に渦を巻きゐる旧洗濯機 姶良市 山下太吉
★梅の実のグラデーションが美しく転がるものも無下にはできぬ 茅ヶ崎市 戸川香織
(米川千嘉子選)
★たましひは羞づかしがりや目をやれば亡夫の寝息はきつと止むらん 大阪市 森川慶子
<評>亡き夫が横にいるような気がしたのだ。それが錯覚であることにも作者は気づいている。上句が切なく心に残る。
★クリーニングに春を出す 花柄に隠されている汚れを思う 三鷹市 菅原海春
<評>「春」をクリーニングに出すというのが新鮮。悲しい「汚れ」がある。
★我が生家を重荷なのよと兄嫁が語れば哀れ褪せた雛飾り 我孫子市 日向子
★お隣にトトロはいない プラチナの高値に押され指輪を売った 碧南市 江原冬莉
★涙ぐむわれを悲しむ声なりき道着の父の叫ぶ「頑張れ」 秋田市 齋藤 朗
★二つ三つ問いたれば医者は顔も見ずネットに載っているからと言う 福山市 伊達則子
★結紮(けっそう)の練習続ける若き医師外科教室の医局の隅で 倉敷市 中路修平
(加藤治郎選)
★淡雪のような笑みだけ浮かべてるいもうとがただみている朝 平塚市 芝澤 樹
★街が消え森が消えても降る雨が今日は偶然ぼくらに降った 大津市 世田夏雪
★ふとももに知らない傷がひとつあり夜に覗くとにっこりと笑む 堺市 石井 藍
(水原紫苑選)
★遺伝子という猛禽がわたくしを系統の樹のこずえに落とす 堺市 石井 藍②
★歯を見れば骨の美しさが分かるジュンパ・ラヒリの小説は夜 碧南市 江原冬莉②
★目が合えば目だけでわらう完璧な満月まではすこし足りない 札幌市 鈴木精良
★とりあえず泡立てている 卵白も地元に残るほうのわたしも 金沢市 塩本 抄
★春一番 延命処置をしてもなお薄命である二月が放つ 那覇市 奥村真帆