3/24朝日俳壇・歌壇。
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★雁風呂や星の高さへ立つ煙(静岡市)松村史基
【評】「星の高さへ」の詩情が、雁風呂の語が帯びる哀感を際立たせる。
★メビウスの帯の散歩や山笑ふ(福岡市)釋 蜩硯
【評】表が裏に、裏が表に。深まる春の道を行く無限の散歩。
★綿虫を掴む人あり掴むなよ(国東市)斎藤典子
【評】摑む行為も、掴むなよという内心の声も何やら夢幻のような気遠さで、そこが魅力。
★兎罠仕掛け鉄砲風呂に入る(柏市)渡部和秋
※「鉄砲風呂」=五右衛門風呂と違って、鉄砲風呂は、木の風呂桶のなかに「鉄砲」と呼ばれる鋳鉄製の筒を入れその筒の中に薪などを焼べて湯を沸かすもの。しかし鉄砲風呂は鉄砲が入るスペースが必要であり人が入る空間が狭く、灰が湯に飛んでくる。鉄砲風呂は昭和30年代を境に家庭から消えていった。
★雪しずり防人の妻佇ちし野に(町田市)吉野和子
※「しずり雪」=木の枝などに積もっていたのが落ちた雪のこと。
★堅雪に声転がして通学子(羽村市)鈴木さゆり
★春雨の肌かがやくや少女像(春日部市)池田桐人
★水餅の終の一つを昼餉とす(長崎市)徳永桂子
◎小林貴子選
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★白木蓮やがて船出のごとく散る(川越市)大野宥之介
【評】木蓮の花びらは舟形なので、こう詠われると散ることにも未来が感じられる。
★一木に俳人ひとりづつ梅見 (藤岡市)飯塚柚花
【評】互いに邪魔しないよう、句作にふける俳人。
★ゴジラ来るやうな音立て春一番(丹波市)木内龍山
★人生に時々悪路春寒し(村上市)鈴木正芳
★能登の地震海苔掻く岩場隆起して(三木市)内田幸子
★独裁のなんでもありの寒さかな(福島県伊達市)佐藤 茂
★風花や天の篩(ふるい)の美しく(苫小牧市)齊藤まさし
★ナワリヌイの獄死に偲ぶ多喜二の忌(三木市)矢野義信
◎長谷川櫂選
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★春愁やひとりにひとつづつ孤独(甲府市)中村 彰
★無残やな春なき国の二年間(松江市)寺本 章
★轟々と余寒の水を那智の瀧(埼玉県宮代町)鈴木清三
★水温む永久に一途な熊野川(新宮市)中西 洋
★酒強き友はみな死に春の星 (長崎県小値賀町)中上庄一郎
◎大串章選
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★極寒のシベリアをいふ白寿かな(垂水市)瀨角龍平
★湯豆腐の名句に偲ぶ万太郎(西条市)稲井夏炉
【評】「湯豆腐やいのちのはてのうすあかり」を思い久保田万太郎を偲ぶ。
★鍵を手に鍵探しをり朧かな(大阪市)眞砂卓三
★享保雛令和の雛と並びけり(福岡市)釋 蜩硯②
★朝日受け曙といふ椿咲く(熊谷市)内野 修
★被災地の若き動きのあたたかし(町田市)岩見陸二
★この子らの三年前や卒業式 (高槻市)若林眞一郎
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★自らを「死神」と言いしオッペンハイマーはヒロシマ、ナガサキ訪(おとな)わざりき(秩父市)畠山時子
【評】原爆製造を指導したこの物理学者は、来日しても被爆地には行かなかった。やはり後ろめたかったのだろう。
★来た時の服が帰りはゆるくなるバレエダンサーの全力の日々(東京都)上田結香
★夫逝きて十一年目の食器棚湯呑みは今も定位置にあり(松山市)矢野絹代
◎永田和宏選
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★電車から零れた客と乗る客を押し込んでいた学生時代(長崎市)下道信雄
★谷戸の田の畦を盛り付け塗つてゆく祖父のごとくに父のごとくに(匝瑳市)椎名昭雄
★独り言だと妻は言ふけど我が前で言へば小言に聞こえてしまふ(三鷹市)宮野隆一郎
◎馬場あき子選
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★心澄み綺麗な瞳の人だつた長尾幹也といふそのひとは(箕面市)大野美恵子
【評】長く闘病の歌を投稿しつづけた長尾幹也さんの本質を、詠み残そうとした哀悼歌。
★遺体さえ所在不明のナワリヌイ氏へ途切れざる無言の花束(寝屋川市)今西富幸
★無事だった船四隻で水揚げす甚大被害の蛸島漁港(石川県)瀧上裕幸
★海温に獲れる魚の変わりきて名産となる磐城イセエビ(仙台市)沼沢 修
★能登恋し羽咋の浜の潮風に折口父子のつつましき墓(鹿嶋市)加津牟根夫
★ピアニストになりたる級友は中学で運針上手な男の子なりしよ(仙台市)坂本捷子
★祖父重蔵は「ちょっとそこまで」と言い残し豪州で潜り真珠採ったらし(大分市)石井蓉子
◎佐佐木幸網選
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★のっぺらぼうがずらりと並ぶ霊園の墓展示場は相当不気味(仙台市)二瓶 真
★瓦礫の中でパンを分け合う兄弟の笑顔をつつむガザの青空(津市)玉村典久
★髭鬚髯(ひげひげひげ)くちひげあごひげほおひげの中東の男子は戒律守る(市川市)北川利明