3/19毎日俳壇・歌壇。

(井上康明選)

★うす雲の触れゆく春の星座かな 相模原市 小山鞠子

★皸のざらりと触るる握手かな 東京 望月清彦 

★タンポポや大飛球追ふ中堅手 東京 野上 卓

(片山由美子選)

★青空へミモザの黄色湧くごとし 広島市 谷口一好

★夕ぐれやほのと明るき雛の部屋 有田市 谷中節子 

★流し雛堰に落つるを躊躇へり 名古屋市 平田 秀

★寝返れば壺の蠟梅香りけり 和歌山市 宮本啓子 

★自転車の乗り込む渡船(わたし)朝霞 土岐市 水野雅子

★大福を妻よりバレンタインデー 山梨市 浅川青磁

★あたたかや赤子預かり気もそぞろ 大阪市 吉田昌之

(小川軽舟選)

★突堤にフェリー迎へぬ涅槃西風 徳島 坂尾径生 

★あたたかや門をくぐれば煮物の香 大阪市 吉田昌之

★ごつごつとまだもの言はぬ冬芽かな 八街市 山本淑夫

(西村和子選)

★小流れに泥靴濯ぐ日永かな 高山市 直井照男

★はだれ野を鴉の漁る日暮かな 川越市 大野宥之介

★梅一輪活けて調ふしじまかな 清瀬市 橋本武志 

★原種とは良き響きなり藪椿 東京 山口治子 

★枝垂梅伝ひて落つる雨滴かな 大阪 池田壽夫

★大根抜くいきなり土の匂ひかな 有田市 谷中節子

(水原紫苑選)

★たましいはたくさんあっていいけれどひとつのからだ鞦韆を漕ぐ 平塚市 芝澤 樹

    <評より>唯一無二のものは身体であるという、存在の感覚がブランコを揺らす。

★真夜中のキッチンそれは沈黙で満たされていて地球は回る 尼崎市 入間しゅか

★装丁の綺麗な異国の古本を買いたいほどのはつ春の市 ふじみ野市 雨雨雨汰

(伊藤一彦選)

★人の世の十二単衣を脱いでゆくミステリーこそ源氏物語 宝塚市 藤田晋一

    <評>源氏物語論がいま盛んだ。「人の世の十二単衣を脱いでゆくミステリー」と作者。修羅の世界を裸にする紫式部の筆。

★本当に心がやぶれそうな日の日記は雪野    足跡もなく 東京 石川真琴

    <評より>雪野とは何も書かれてなくて真っ白。

★春告ぐるランナーに声届けんと梅が力をしぼりおりたり 垂水市 岩元秀人

★いままさに鰆船出す頃合ひと老練漁師沖の潮読む 霧島市 内村としお

★活けられし桃の枝にも虫の這ひ雪降る里に啓蟄近し 北広島市 富丘治生

★闘いに敗れたトナカイの角売りて餌代稼ぐ牧場 札幌市 佐藤 学

★日の光浴びた毛を撫で幸せは温かいものだと気づかさる 川崎市 水面 

★万博のトイレは2億円だけど能登ではいまだ仮設の便所 西海市 まえだいっき

(米川千嘉子選)

★必死に逃げて必死に探して    もう簡単に「必

死」は使うまい 見附市 岡村文子

    <評>新潟県在住の作者が詠んだ場面は能登半島地震で被災した人々の様子だろうか。戦争や紛争の続く世界各地でもまた。 

★集団と儀式嫌いのおれが明日新婦の父になるプレッシャー 春日部市 宮代康志

★これまでの生業は聞いたりしない齢さまざまな 人に交じれる 宇治市 清原茂樹 

★満州は迎春花(インチュンホア)の咲く頃か内地見ずして逝きし児よぎる 枚方市 衛藤聰一

★亡き妻の形見の杖を手にすれば「小さな旅に出よう」といふ声 高松市 島田章平

★迷わずに優先席に座る吾の三つの病誰にも見えず 野田市 片倉伸明 

(加藤治郎選)

★白リボンするりとほどくようにしてきみは腕をそっとはずした 埼玉 玖嶋さくら 

★わたしというゼロをいつかは知るでしょう一冬ごとに歳を重ねて 京都市 小川ゆか

★作業員Aの役目をやり終えて来週からは作業員B 東京 仲原 佳

★終着の近づき車内に声戻る四時間半の鈍行の旅 瑞穂市 渡部芳郎

★八十一歳のさくら今から楽しみで如月の枝今日も見上げる 横浜市 中村秀夫