3/19西日本新聞「西日本読者文芸」

◎俳句 星野椿選

★落款のごと石庭の落椿 大野城 荒木信夫

★箱開き雛の孤独を解き放ち 久留米 溝上博子

★春めきて雲ゆっくりと川わたる飯塚 野見山洋子

★阿蘇の地の太古の匂ひ野焼あと 福岡中 西村英俊

★鳥影に語りかけたる春障子 伊万里 田中秋子

★筑後川くねる大河や麦の秋 福津 藤吉靖信

★目礼をしてすれ違う梅見かな 有田 栗山愼悟

★若布刈る海源平の古戦場 太宰府 入江眞己子

★万葉のほぐれゆく空立子の忌 筑紫野 横山美惠子

 ※星野立子さんの忌日は3月3日(1984年)。


◎俳句 秋尾敏選

★百閒に因みて夫の木蓮忌日田 星川晶子

 【評】内田百閒の木蓮忌は四月二十日。夫君の忌日もその前後だったのだろう。文学を愛し、百閒を愛読していた方だということが伝わってくる。

★啓蟄の漂流壜が沖へ出る 佐世保 牛飼瑞栄

★地震の畦地震の校庭下萌ゆる 宗像 川口茂則

★ネールあり皺の手もあり針供養 久留米 小川寿一

★嚏して決まらぬヨガの死のポーズ 飯塚 古野道子

★手芸部に男子二人や針供養 小郡 赤坂郁子


◎短歌 栗木京子選

★共に行く旅行プランを我は本、孫はスマホでさくさく決める 福岡東 池田弘子

★博多座に初出演の染五郎布擦れ激しく吾はめろめろ 福岡西 石田ひろみ

 【評】歌舞伎俳優の市川染五郎さん。まだ十代だが、祖父や父から受け継いだ才能のきらめきを感じさせる。「めろめろ」の手放しのファン心理に共感を覚えた。

★朝起きて夕餉ののこりを「つづき」と言う息子のことばに母救われたり 福岡南 真木聡恵 

★まっしろなシーツを空に干すようにあなたのラインしずかに消した うきは 生野 薫

★平らなる道につまずくわが足によしよしと褒む転ばなかったね 福岡早 市川登美榮 


◎短歌 伊藤一彦選

★介護とふ体(てい)をよそほひ本当は私が母に甘えてゐるのだ 福岡東 福澤美弥子 

★不登校とふさなぎの人でゐたことも今のわたしをつくれる一部 大野城 染川ゆり②

★菜の花の先で戦車が燃えているでも菜の花はそれを知らない うきは 生野 薫

★「癌友」といつも笑顔で我を呼びさっさと逝ってずるいよ君は 糸島 林田仁子 

★「先生は僕のばあちゃんに似ています」最大級の大好きもらう 福岡南 福井幸子 

★母さんも歳をとったと気付きしか手を差し伸べる子の声やさし 福岡早 村上瑞枝

★たんぽぽのわた毛の如く次々と昭和の星が旅立ちにけり 大牟田 柿川京子


◎川柳 森中惠美子選

★能登地震瓦礫の下の小さき春 福岡南 敷田無煙

★ベビーカーの中に平和が眠ってる 福岡城 三吉 誠

★生きることだけ考えてただ生きる 豊後高田 野田博巳

★立ち止まることを覚えた定年後 福岡城 常岡和明

★ぼたもちを間にあの日からのこと 福岡城 坂梨和江

★初めてのことが嬉しくなる老後 福岡早 出雲一夫

★雨に負け風にも負けて水たまり 朝倉 足立修三

★被災地の朝市に陽が昇りだす 福岡中 岩崎正美