3/16西日本新聞「ながさき読者文芸」

◎俳句 籏先四十三選

★牡蠣鍋や有明海を懐に 諫早 廣川 豊 

 【評より】有明海の海の幸である牡蠣を食することができる幸福感。この海を糧にしてきた思い。

★指揮棒の奏づる世界下萌ゆる 佐世保 川原田安子 

 【評】神々が支配する世界。彼らの采配で、この地球上の生きとし生けるものが、その手に委ねられている。

 ※この世界が選評の通り神々の差配によるものであるならば現在の世界はあまりにも残酷。句は音楽の世界のことを言っているのかも。小澤征爾さんが亡くなってからまだ間がない。

★怖々と手繰る一尋蝌蚪の紐 諫早 田中道信

★白梅や欄干朱き太鼓橋 西海 楠本シヲリ

★お蝶さんの見遣りし港ハタ日和 佐世保 相川正敏

★引き潮老いも若きも海苔を摘む 佐世保 荒木幸則

★廃校の門扉あせたり桜咲く 長崎 古木義明

★菜の花やもう一品は玉子焼 佐世保 詫間初美

★卒業子目線の先にある未来 諫早 篠崎清明

★首飾り髪飾りにして落椿 大村 松永喜美子

★血圧の気になる老いの桜漬 平戸 古川敏郎

★姉しのぶワインの赤や春の月 壱岐 深見秀子

★ガレージを全開にして初燕 対馬 神宮斉之

★茶の庵を訪へば香れる枝垂れ梅 佐世保 馬場定水

★母校変らぬ三代の卒業子 諫早 関山悦子

★合格子に強き握手を返されし 諫早 石田志帆


◎歌壇 黒田邦子選

★吹く風に身をゆだねたる老猟師こころしずかにその時を待つ 対馬 神宮斉之

★婆ちゃんの勿体ないは生きる知恵世界の飢餓へ思いを馳せる 佐々 法本安子 

★耳鳴りの奥にかすかな音つかみ記すウグヒス初鳴きの日を 佐世保 鶴田竹一

★今朝もまた予報破りのにわか雨予定の仕事くるはせ居りぬ 平戸 壽福院 亮

★電子辞書で知らぬ言葉や熟語など見つけ学習老ゐてたのしき 佐世保 松崎伸苑


◎諧句 川田金太郎選

★入院へ花に声かけ水を撒く大村 松永喜美子

★いちご狩りハウスの中の賑やかさ 大村 内田和代

★生き下手の人間だって夜は明ける 佐世保 鶴田竹一

★雪が降り童心戻りだるま二個 佐世保 松崎伸苑

★八重椿一番に咲き落ち急ぐ 佐世保 末藤梅子

★地震後の瓦礫の山に知る痛み 佐世保 矢羽田妙子

★悔しさは心で叫び秘めておく 松浦 前田サツキ

★悪口も不満も言わず嫁姑 壱岐 砥綿 滿

★乾燥の指をなめつつ針仕事

壱岐 植村多恵子

★北風に太陽は勝つウクライナ 対馬 神宮斉之

★おんぶして母の軽さを思い知る 佐世保 内田弘毅 

★手の中にある幸せに気付かない 佐々 法本安子