長崎新聞郷土文芸(2) グループ作品、他。

◎「グループ作品」「歌・句誌」より

(太白句会)

★それぞれの樹齢の艶や寒椿 吉岡乱水

★イマジンの流るるカフェ暖かし 徳永桂子

★齢重ね寂びまさりけり土雛 松本洋子

★磯開過去となりゆく埋立地 大石照美

★列組んで皆整然と卒業子 成瀬至楽

(太白句会)

★春風や球児募金を呼び掛くる 三上京子

★雛飾り口元しばし見入るかな 山脇順子

★潮入の光引き寄せ蘆芽ぐむ 吉田志津子

★諸鳥の音色飛び交ふ寒桜 吉田睦子

(明星俳句会)

★春寒しぽつりぽつりと身の上話 長島富美枝

(杏長崎センター句会)

★山襞の朝靄の中初音かな 江里口水子

★春雷や舗道押し上げ木の根張る 大久保俊子

★春水やはねぎ搾りの蔵を訪ふ 北田和美

 はねぎ搾りとは、「はね木」と呼ばれる大きな木の先に重しをぶらさげ、テコの原理を利用してお酒を搾り出す方法。

★春泥や小さき丘の墓参り 城谷麻衣子

(杏長崎センター句会)

★月おぼろ言の葉たぐる通夜帰り 廣澤寛子

★女気の無き禅寺のひいな展 松尾酔雲

★雛まつり我待つ母の散らし鮨 峰 邦子

★物差しに母の名のあり春日さす 山下 忍

★春節の皇帝パレード綺羅粲粲 横瀬恭二

(北公民館ひこばえ句会)

★初音かな二声のみの坂がかり 緒方智子

どの道も坂ばかりかな梅真白 荒木ルリ子

★白蓮の空押し上げて咲き初めぬ 高木弥生

★峠越すローカル列車山笑う 吉本正明

★湯煙の棚引く町よ風光る 桃下喜代子

★眼の前に磯が浮かぶやあおさ汁 伊藤とみお

(北公民館ひこばえ句会)

★ガラス越し母と歌談す二月尽 倉嶋朋男 

★定食屋たっぷりと盛る春キャベツ 池田 昇 

★胃袋に納めて嬉し桜餅 中村佳代

(翼の会)

★かつて引きたる手に引かれ伊勢参 小谷一夫

★水温む見舞ひの夫とハイタッチ 田川美根子

★真つ白な便箋広げ外は雪 仲里奈央

★南天の実の郷愁を零しをり 宮内百花

(青嶺12月号)

★秋気澄むふるさとの山そして川 村田まさ子

★飛魚船の瀬戸の渦ごと網曳けり 畑中榮治 

★古民家と新築並び彼岸花 西山東洋

★山の日の山や旧知のごとき人 鴛渕和明

★光年といふ旅もあり流れ星 福島 翔

(同人12月号) 

★一湾の鏡びかりや秋気満つ 梯 レイコ

★深秋の霖雨打つなり忠魂碑 浦田八枝(故人)

★紙漉きの小屋の軒下吊し柿 稲葉靖子

★鳳仙花幼き頃の風に会ふ 山本敦子

★門前の花植ゑ替ふる今朝の秋 出口彰遊子

(沖12月号) 

★平家谷霧の奥より霧生るる 朝長美智子 

★如何程の井戸の深さや葛の花 米光徳子 

★芋虫を肥らせてをりプラン ター 阿部順子 

★秋夕焼見舞ひはたつた十五分 伊藤壽彦 

★蜩の鳴いて残昭翳りゆく 山下洋一郎

(海原12月号)

★AIが人類嗤うおぼろ月 前川弘明

(海原12月号)

★ふるさとは虫の声絶え只の闇 江良 修 

★乗り換えのバスを待ちおる秋の雲 鳥井國臣


◎「短歌(うた)ありて」

★話したい気分なんだねキッチンにきみが宿題広げる夜は 岩下麻理子

 〜「きみ」とは、そろそろ親が煙たくなる年頃の少年か。最近何となく自分と距離を置き口数も減ってきた子を、成長の証しと捉えつつも一抹の寂しさを禁じ得ない作者。しかし、そんな子がふとキッチンにやってきて宿題を広げる夜がある。時には学校の話なども交えつつ。洗い物の手を休めては、作者は静かに彼の話に耳を傾ける。「慌てて大人になることなんてないよ。もうしばらくは私のかわいい息子でいてね」・・・そう思いつつ作者は今日も彼がキッチンに現れるのをひそかに待っている。去年の全九州短歌大会で第1席・日本歌人クラブ賞を受賞した作品。(波濤・下田秀枝)

★坂道を登りつめたる家に住むきみが老後を不自由にする 今井嘉明

 〜アパートの上階に住む私の場合、夏の夜は窓全開で眠れるし、洗濯物はベランダに干せばたちまち乾く。重い荷物や大きな物は抱えて駆け上がり、何も苦にせずむしろ便利に住んできた。そうこうしている間に加齢が進み、今は掲歌に詠まれたような不自由な状況になっている。ここでの「きみ」もきっとそうであったろう。作者は 「きみ」に心遣いをしながら、自らが招いた事柄であるとも指摘し、優しく自助努力を促す。現代の世情を映した時事詠の性格も備えている。2008年のアンソロジー 「真実」より。(ひのくに ・ 吉岡正孝)


※一面「きょうの一句」はありませんでしたが、次のページにこの一週間の分をまとめて投稿します。