「俳句文学館」⅗号(3)俳人協会賞など。

◎第63回俳人協会賞①『家族』千葉皓史(こうし)

〈受賞の言葉〉身に余る光栄です。今は亡き石田勝彦師と綾部仁喜師は共に同賞の受賞者です。両氏は俳句作者として傑出していたのみでなく、名指導者でもありました。比較して、この私がいかに卑小な存在であるかは申すまでもありません。片山由美子をはじめとする選考委員の皆様に、深く感謝申し上げます。また、全ての会員のみなさまにも、心から感謝もうしあげます。顧みて、平成3年度俳人協会新人賞を受賞後の私は、一身上の都合により「泉」を退会させて頂きしました。私的な起業に伴う繁忙と、子育てと老母の介護と、俳句の道を同時に叶えることは当時の私には無理と考えられたからです。しかしその後も、藤本美和子主宰は「泉」誌の表紙・カットの担当を通じて俳縁を繋ぎ留めて下さいました。連中の皆様方に、この場をお借りして御礼を申し上げます。また、広く俳句仲間のご厚誼にも感謝申し上げます。

千葉皓史さん(ちばこうし) 1947年東京都生まれ。早稲田大学卒業。1978年「泉」入会、俳句を石田勝彦綾部仁喜に師事1989年大木あまり長谷川櫂とともに「夏至」創刊に参加。1991年第一句集『郊外』により第15回俳人協会新人賞2024年第二句集『家族』により第63回俳人協会賞を受賞。代表句「裸子がわれの裸をよろこべり」など。現在は結社無所属。また篆刻菅原石廬に学ぷ。1987年、和文具・和雑貨のブランド「GENRO (ゲンロ)」創業。2005年杉並区上井草の社屋一階にカフェ「茶・いぐさ」開店(2008年「genro & cafe」に改称、現在は息子さんが経営を続けている)。「まちづくり上井草」代表、上井草商店街発行のフリーマガジン『Vinci(ヴィンチ)』編集人。

第63回俳人協会賞②『瑜伽(ゆうが)』橋本榮治

〈受賞の言葉〉畏友横澤放川に受賞の報告をすると、開口一番に「出すのが遅い」と叱られた。さすが目の付け所が違うと感心しつつ、編集や交遊の愉しさに句集上木を忘れていたのだろうかと真剣に考えた。件の会と改組改称される前の句会でのことだった。馬醉木の編集長になってからは教える立場ばかり、教わる句会が皆無になった、一から指摘してくれる句会はないものかと嘆いた。知命をとうに過ぎた編集長が一からの手習いはないでしょう、あったら私だって入りたいよというような顔を他の出席者にされてし まい、諦めざるを得なかった。しばらくして、黒田杏子さんから先日のあなたの言葉、受けさせてと電話が入った。東京では見つかって変な噂が立ったら困ります、その恐れが少ないあんず句会(京都寂庵句会)に来ませんかのお誘い。その時から、月一回の京都の社会勉強を兼ねた黒田さんとの長い長い俳句の伝授が始まった。今句集にもその成果はあるはず。

橋本榮治さん 1947年神奈川県横浜市生まれ。千葉大学法学部卒。1976年、「馬酔木」に投句、水原秋桜子福永耕二に師事。1987年「馬酔木」同人。1997年「馬酔木」編集長に就任し、2007年まで務めた。1995年『麦生』で第19回俳人協会新人賞、2024年『瑜伽』で第63回俳人協会賞受賞。句集に『麦生』『激旅』『放神』『瑜伽』、俳書に『水原秋櫻子の一〇〇句を読む』がある。「馬酔木」同人、「枻」代表、「件」編集人。

※瑜伽=ゆうが、ゆが。仏教におけるサンスクリット語「yoga योग」の音写語で、感覚器官が自らに結びつくことによって心を制御する精神集中法や、自己を絶対者に結びつけることによって瞑想的合一をはかる修行法をいう。心身の健康法としてのヨーガ(ヨガ)もこれに由来する。

第47回俳人協会新人賞『膚(はだえ)』岩田奎

〈受賞の言葉〉櫂未知子・佐藤郁良代表はじめ「群青」のみなさま、ふらんす堂のみなさまに感謝したい。まわりの力を借りながら句集を出すということは、私にとっては楽しいプロジェクトでしかなかった。もちろんそれは誰に気兼ねをすることもない独身で、全賞与をそれに充てると決めていたからにすぎないのだが。いったい句集というのはその人の人生の体現であるのか、作家性の体現であるのか。『膚』は、編年体の記録性を保ちながら題や構成の部分でできる限りコンセプチュアルなものとなるよう心を砕いた。そうした面を選者の先生方に評価していただけたのならこの上なく幸甚である。人生をもって作家性となすのは恰好よいが案外たやすいのかもしれない。私は作家性をもって人生となすことをこれからもなるべく試してゆきたい。と思っている。
岩田奎さん 1999年京都生まれ。2015年開成高校俳句部にて作句を開始。2018年第10回石田波郷賞新人賞、2019年第6回俳人協会新鋭評論賞、2020年第66回角川俳句賞受賞。俳誌「群青」所属。