3/4毎日俳壇・歌壇。

(小川軽舟選)

★図書館の閉館時間日脚伸ぶ 愛西市 小川 弘

★切通し抜けて寺訪ふ初音かな 高山市 直井照男

★枡酒の杉の香りよ春の雪 川越市 益子さとし

★梢より土に親しき寒雀 千葉市 畠山さとし

★天狼の蒼き眼や爛々と 延岡市 九鬼 勉

 ※「天狼」=天狼星、シリウス。おおいぬ座で最も明るい恒星で、太陽を除けば地球上から見える最も明るい恒星。↓に私も詳しく書いています。

 11/29は永久の会の定例句会。兼題「天狼星」。

https://ameblo.jp/kawaokaameba/entry-12545450080.html

★関東煮昔話をひとしきり 大和高田市 楠 伸治

★春寒や記憶の底の野辺送り 瑞浪市 岩島宗則

★縁側に漱石読めば日脚伸ぶ 北九州市 寶満光保

★新聞紙濡らし千切りて初箒 香川 佐藤浩章

★風光るぽんぽん船の入江かな 高槻市 黒田豊子

(西村和子選)

★傘ひらく舞妓へふはり牡丹雪 兵庫 小林恕水

★鶯餅家族会議のために買ふ 下野市 石井 光

 <評>家族会議とはものものしいが、明るい話であることを季語が語る。議題は何 ? 

★長風呂や寒柝の音消えるまで 志木市 谷村康志

★朝まだき白湯に春立つ甘さかな 大阪 芹澤由美

★追伸に猫のことなど寒見舞 川崎市 折戸 洋 

★生き生きと漁火遠し春兆す 姫路市 板谷 繁

★向ひ合ふ虚子と立子の墓に春 神奈川 中島やさか 

★灯を消さばもの言ひさうな神楽面 郡山市 井上 博

★参道に買ふ出来立ての蓬餅 枚方市 門川清秀

(井上康明選)

★龍太忌や百戸の谿の春の月 相模原市 小山鞠子

 <評>飯田龍太忌は2007年2月25日。その第1句集『百戸の谿』を詠み込んで、追悼の思いを明るくストレートにうたう。

★空焦がす煙を照らし山焼かる 奈良市 奥 良彦

 <評より>噴煙を照らし、山焼きの炎が裾野から尾根へ伝わっていく。

★泥の黙瓦礫の黙や春寒し 国分寺市 野々村澄夫

★シーサーの口にも阿吽春疾風 東京 榎並しんさ

★島あげて歌ふ一人の卒業歌 明石市 島谷喜代孝

★潮待ちの漁師集まる春疾風 相模原市 はやし 央

★旅の子の短きメール春浅し 臼杵市 村上玲子

★冬夕焼旅の半ばの古都歩く 久留米市 持地恒美

★加賀友禅の紅流す雪解川 川越市 益子さとし

★竹林の撓ふ音あり春一番 名古屋市 平田 秀

(片山由美子選)

★薄氷の吹き戻さるる時ふるへ 東京 山口照男

★入院の後空白の古日記 和歌山市 藤池芳子

★閉店の記事の小さく春隣 愛知 高橋一枝

★搗くたびに草餅らしくなりにけり 湖西市 宮司孝男

★落葉掃く創立百周年の門 土浦市 今泉準一

★白魚の命ひしめき目のひしめき 海南市 塚月凡太

★二三輪あとのつづかず梅寒し さぬき市 景山典子

★靴の跡残る三和土や冴返る 香芝市 河野嘉雄

★集落に残るは二軒冬灯 西海市 まえだいっそう

(米川千嘉子選)

★跨線橋で待ち合わせればこの胸の轟きもまた街の一部だ 千葉市 芍薬

 <評>線路をまたぐ橋から街を見渡す。胸に抱えているのはどんな「轟き」か。さまざまな人の心を抱えて街も生きている。

★ふる里の駅前通りは変わり果て北村薫の小説の中 幸手市 中村早苗

 <評>北村薫と同郷の作者。その小説の中で辛うじて懐かしい「ふる里」に出会う。

★テスト四つレポート六つ終わったらきみとラーメン食べに行きたい 京都市 小池ひろみ

★初産のかすかな命消え失せて張りたる乳房赤児を求む 仙台市 池田 良

★雨降れば千代田区の路地セキレイが野良猫のように歩く日曜 東京 河野多香子 

★誰一人吾の気持ちは分からぬさと朝一番にテーブルを拭く 千曲市 中村美樹 

★障子貼る手元ふと見るこの手つき亡母(はは)に似たるよ亡姉(あね)に似たるよ 行田市 望月悦子

★黙々と火花を散らす受験生 試験会場マグマの如し 東京 東 賢三郎

(加藤治郎選)

★手賀沼の湖面の光が見たくなる常磐線の下りに乗れば 千葉市 佐藤綾子

★プリンのように震えつつおびえつつすくってくれる誰か待ってる 静岡市 海瀬安紀子

★友達を飛び越えあの日現れたあなたは春の柔らかな雨 所沢市 里見脩一

★デジャヴ駅最寄りの君のアパートへ向かう途中で迷って起きた 東京 人子一人

(水原紫苑選)

★わが指をはなれし塩と はなれない塩のどちらも父と思へり 横浜市 森山緋紗

★さよならをふと理解する冬の午後ひかりあつめる玻璃の屈折 名古屋市 夏生 薫

★折り紙で覚えし形で水仙は揺るぎなく雪の横に立ちをり 柏市 遠野 鈴

★地下室に閉じ込められた蝶として親の目の色を見る少女 横浜市 友常甘酢

★靴紐をほどけば蝶はその翅を休めるようにひれ伏していく 京都市 よだか

★おづおづと鏡のなかを覗きこむわたしのなかに夜を見つける 見附市 有村桔梗

★制服のスカートが重かったこと思い出す冬のエスカレーター 東京 小亀令子

(伊藤一彦選)

★青年の父に逢ひたし友としてりんご皮ごと齧りあひたし 市川市 岡本 恵

★惜しまれて世界のオザワ旅立ちぬクラシックには永遠がある 伊賀市 福沢義男

★のと鉄道再開したと叔母が言ういつもいた子がいないとも言う 金沢市 竹内一ニ

★牧場の牛と牡蠣棚どうなった能登のその後のニュース流れず 見附市 岡村文子

★三食のご飯、エアコン、暖かい布団 日本の自殺者の数 雲南市 熱田一俊

★お腹ならいっぱいだけどその上に位置するものが渇いて飢える 静岡市 海瀬安紀子

★父さんがやって来たような緊張感生まれて初めてわが家に仏壇 春日市 伊藤 亮